体調が悪くなってからの対処では遅い


例えば、2型糖尿病を発症したとします。特に他に事情がなければいろいろな治療の選択肢が考えられ、ここでは仮に薬を2種類ないし3種類使って糖尿病がうまくコントロールされていたとしましょう。しかし、そこに腎臓の病気も重なってしまうとどうなるでしょう。

実は、糖尿病の薬は数あれど、その多くが腎臓で代謝されることが知られています。このため、腎臓の機能が悪化してしまうと、たちまち使える薬の選択肢が限られてしまうのです。このため、最終的には注射薬であるインスリンしか安全に使える治療の選択肢がないという状況が起こりえます。

あるいは、このような状況も考えられます。少し極端な例ではありますが、心筋梗塞と呼ばれる心臓の病気を発症した後に、出血性胃潰瘍と呼ばれる病気を発症してしまった状況を考えてみましょう。

この場合、前者は心臓を取り囲む血管に「詰まり」が起こってしまう病気なので、その詰まりが起きないように血を固まりにくくする薬を使いますが、胃から出血を起こしてしまう出血性胃潰瘍が起こってしまった場合には、血を止めることが優先されるため、血を固まりにくくする薬を(一時的ですが)止めなくてはいけません。

この場合、心臓にとっては「リスクをとって治療する」ということになります。

 

このように、2つの治療目標が相反するというイベントが起こることがあり、どちらかを優先して、どちらかはリスクをとるという判断をしなければならないシチュエーションが生じることになります。それはすなわち、健康を大きく損ねる、ひいては命を落とすリスクが高くなるということにもなりかねません。

 

残念ながら、多くの疾患は、一度発症すると長く付き合っていかなければならないことも多く、このような病気は積み重なっていく傾向にあります。そして、時に治療が相反してしまうこともあるのです。

だからこそ、予防できる病気ならば、「体調が悪くなってから対処する」のではなく、体調が良いうちに「未然に防ぐ」予防医療が重要だということがおわかりいただけると思います。


前回記事「高齢者の2割近くは病気なし!100歳にして自分の足で歩く秘訣とは。」はこちら>>

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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