90代女性が元気に一人で来院


人間は加齢とともに体や心に様々な不調を起こし、病気を抱えることが多くなります。しかし、逆に全く病気にならない高齢者もいます。歳をとったら必ず病気になるというわけでもありません。

ある日の外来に、90代の女性が一人で訪れたことがありました。これまで病気は何かあるかと伺うと、「風邪のような小さな病気以外は何もないのです」と教えてくれました。あまりに元気で毎日歩き回っているというので、「万が一転んだ時に骨折するといけないので骨粗鬆症の検査をしませんか」と提案しました。

しかし、「過去に一度もやったことはないけれど、骨は丈夫だから大丈夫よ」とあっさりと断られてしまいました。それでも粘り強く、「骨の丈夫さを感覚で知るのはなかなか難しいので、オーダーして、気が向いたら受けられるようにしておきますね」と伝えてその日は別れました。

後日、実際に検査を受けてくれて、結果が返ってきて驚きました。結果は「正常」で返ってきたのでした。私は「少しは異常があるのかな」と事前に予想をしていたのです。電話で結果を伝えると、「ほら言ったじゃない。ちゃんと患者さんの声に耳を傾けなさいよ」と冗談まじりに怒られてしまいました。

本当に病気知らずなんだなと思い知らされた瞬間でした。数多くの高齢者の診療にあたっているとこんな方に出会うことも決して珍しくはありません。

参考文献1を参考に作成

厚生労働省の公表するデータ(参考文献1)を見ると、高齢者の6割近い人が複数の病気を持つことが見えてくる一方で、10〜20%の人に慢性疾患がないと報告されていることがわかります。

 

なかには未診断の病気を持っている、稀な病気を持っているなどのケースもあると思いますので、実際の数字は報告より小さくなるかもしれませんが、それでも、全く病気がなく70歳代や80歳代を迎えられる人がいるということがわかります。

さらに、このグラフをよくご覧いただくと、80歳代をピークに、90歳代になるとかえって病気がない人、少ない人の割合が増えてくることがわかります。

ここで誤解してはいけないのは、これは「80歳を超えると慢性疾患が治る」ということを意味しているわけではないことです。慢性疾患が複数ある人は70歳代や80歳代で残念ながら命を落としてしまい、逆に90歳まで生きた人は、それだけ元気な人だということを意味しています。

 
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