【3位】連ドラ『大豆田とわ子と三人の元夫』
(各種サブスク、オンデマンドにて配信中)

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『大豆田とわ子と三人の元夫』 写真:番組公式サイトより。

ひとりでだって生きていけるし、ひとりでだって幸せになれる。でも、ひとりは寂しい。生涯未婚率は、男25.7%、女16.4%。さらに3組に1組のカップルは離婚をする現代で、私たちはいつもひとりの不安から逃れることに必死です。

 

そんな、頼りなくて、はみ出しがちで、イケてないことばかりで、でもいとおしい日々を、軽妙に、時にシニカルに描いたのが『大豆田とわ子と三人の元夫』。脚本は、今や当代随一の台詞の名手として親しまれる坂元裕二です。

大豆田とわ子(松たか子)には3人の元夫がいました。最初の夫・田中八作(松田龍平)。2番目の夫・佐藤鹿太郎(角田晃広)。3番目の夫・中村慎森(岡田将生)。「大豆田」というちょっと風変わりな姓を持つとわ子は結婚するたびに、「田中さん」「佐藤さん」「中村さん」というごくありふれた苗字に変わったが、どの結婚も長くは続かず、結局「大豆田さん」に舞い戻る。

職業は、社長。生活はリッチで、服装もオシャレ。肩書きや見た目だけで言えば、とわ子は“持てる者”。だけど、中身は真面目なんだけど不器用で、人に気を遣って損することも多く、それでもいつも他人にも自分にもすごく誠実。そんなとわ子だからみんな好きになる。大豆田とわ子は最高だってなる。

ファンタジックな手ざわり。深みのある色彩感覚。フレンチポップ風の心地いいサウンドトラック。そのどれもが素晴らしいけど、やっぱり坂元裕二といえば台詞です。

「ひとりで焼肉も行けるし、ひとりで温泉だって行けるし、私はひとりでも大丈夫だって」

「でも、小さなことかな。小さなことが、ちょっと疲れるのかな。自分で部屋の電気をつける。自分で選んで音楽をかける。自分でエアコンをつける。まあ、小さいことなんですけどね。ちょっとボタンを押すだけのことに、ちょっと疲れる感じ。そういうときに、あ、意外と私、ひとりで生きるのが面倒くさい方なのかもなって思います」

初めてこの台詞を聞いたとき、僕の心の裏側に書いたメモをそのまま読み当てられたような気持ちになって、つい泣いてしまった。生きていると、疲れることが多い。真面目な人ほど、そういうところを誰かに見せられなくて、抱え込んでしまう。そして、ぽきっと折れてしまう。

でも、私たちは幸せを目指していいんだと。人生は楽しいんでいいんだと、大豆田とわ子が教えてくれる。無責任にエールを送るでも、押しつけがましく肩を叩くでもない。揚げたてのカレーパンを「半分食べる?」と言うように分けてくれる。『大豆田とわ子と三人の元夫』はそんなドラマです。


【2位】連ドラ『直ちゃんは小学三年生』
(各種サブスクにて配信中)

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『直ちゃんは小学三年生』 ©「直ちゃんは小学三年生」製作委員会

登場人物は、全員小学生。ただし、演じているのは全員大人。企画だけ見れば、ふざけてる。だけど、とんでもなく人間らしくて、くすくす笑ったあとにやけにせつなくなるノスタルジックコメディ。それが、『直ちゃんは小学三年生』です。

捨てられていた交通系ICカードを拾ってジュースを買おうとしたり、それが見つかりそうになって大慌てしたり。倉庫に忍び込んで秘密基地をつくったり。今から考えてみれば大したことではないのに、あの頃はすべてが一大事だった。

「何時何分何十秒、地球が何回回ったとき?」に「ごめんですんだら警察いらないよね」、3秒ルールに絶交。次々と飛び出してくる、ああ自分も小学生のときに使ったという、なつかしいフレーズ。まるで引き出しの奥から、古いアルバムを見つけたような気持ちになって。だけど、決してただの“小学生あるある”で終わらないところが、このドラマのいいところ。

てつちん(前原幌)の家は貧乏で、大切な靴を汚されてしまったきんべ(渡邊圭祐)はついかっとなって「悪いと思ってるなら弁償してよ。できるの? できないよね? てつちんの家、お金ないもんね」となじってしまう。よく大人は、子どもを純粋だと言うけれど、感情のコントロールが効かない分、子どもは時にものすごく残酷になる。

一方、子どもはフラットな分、本質を突いてくる。男子が掃除を手伝ってくれないことに怒るますみ(堀田茜)に、光(水嶋凛)は「私たちが手伝ってほしいと思うからいけないのかなと思って」「手伝ってってさ、なんか私たちの仕事を男子にやってもらうみたいで、変な感じがするし」と言う。

経済格差、ジェンダー格差。子どもの世界でも、それらはある。むしろ子どもの視点を通して描くことで、問題の輪郭がはっきりする。おバカなコメディのようで、社会を映す鏡となっているから、大人が見てもはっとさせられるのです。

過ぎた時間は戻らない。あの頃の友達は、もうひとりも僕のそばにはいません。だけど、確かに僕にも、あなたにも、誰にでも小学三年生の時期はあって。いつか自分が大人になるなんてことを考えもせず、家にランドセルを置いては、ダッシュで遊びに出かけていた。そんなおぼろげな記憶と一緒に、そっとカンカンにしまって土の中に埋めておきたい、宝物みたいなドラマが、『直ちゃんは小学三年生』です。