【1位】朝ドラ『おかえりモネ』
(Amazon Prime Video、NHKオンデマンドにて配信中)

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『おかえりモネ』 写真:番組公式サイトより (C)NHK

3.11から10年。少しずつ震災の記憶が遠のく中、あの日、幼かった子どもたちも大人となり、社会へ出つつあります。たくさんの人が命を落とした。たくさんの景色が津波に飲み込まれた。傷は癒えることはあっても消えることはない。それでも、生きていく。震災によって傷を負った子どもと大人たちの長い長い再出発を描いたのが、『おかえりモネ』です。

 

震災の日、自分は難を逃れた。ヒロイン・永浦百音(清原果耶)はずっと自分は役に立てなかったという負い目を抱えていました。そんな罪悪感から逃れるために、高校卒業と共に、故郷の島を離れ、登米の森林組合で働きはじめます。そこで出会った新田サヤカ(夏木マリ)ら山を愛し、山を守る人たち。気象予報士の朝岡覚(西島秀俊)。そして医師の菅波光太朗(坂口健太郎)。新しい環境で、いろんな人たちとの関わりを通して、モネは少しずつ明るさを取り戻していく。

半年に渡って放送された『おかえりモネ』は“登米編”“東京編”“気仙沼編”の3つに分かれて構成されています。それぞれにじんわりと胸に沁みるものがあるのですが、中でも個人的に白眉だと強く推したいのが“登米編”。透明感あふれる映像で描かれる美しき山々と厳かな登米能。長い時間をかけて育まれる木々と、その木にかける人の想い。その真摯な描写に、制作者たちの登米という土地と山の人々への敬意を感じます。

そして、そんな自然豊かな場所で紡がれるモネの心の再興。見ると幸せになれるという「彩雲」を見つけたこと。雷雨の降る山に取り残されたとき、命を救ってくれたのが、朝岡のアドバイスだったこと。天気予報は、未来を予測し、人の命を守るもの。あの日、役に立てなかった罪悪感を抱えていたモネは、徐々に気象予報士という仕事に興味を持ちはじめます。

音楽の夢を失い、自分のやりたいことがわからなかったモネが、気象予報士という道を見つけ、自分の足で踏み出すまでが“登米編”のストーリー。そこに寂しさをこらえてモネの自立を応援するサヤカの葛藤と、殿様から預かった大事な木を切る決断が二重奏となって折り重なることで、観る人の心を優しく包み込んでいくのです。

サヤカは、檜によく似た翌檜(ヒバ)の木を前にこんなことを言います。

「ヒバは、雨、風、雪に耐えながら、長い時間をかけてゆっくり成長すっから、体がぎちっとしてて、緻密で、狂いが少なくて、虫にも湿気にも強い。私、檜になれなかったって、もじもじしている木だけどね、この子はものすごくいい木なのよ」

この言葉は、まさにモネという人間を表したもの。そして、もじもじとしながら長い時間をかけてゆっくり成長するモネだから、いつの間にか娘のようにいとしく思い、応援したくなるのです。

“登米編”のラストは、切り倒されたヒバの木の前でのモネとサヤカの別れ。惜別の思いをこらえて、モネはサヤカに「10分後にあそこの空、見てください」と伝える。するとそこには、2人で見た「彩雲」が。天気のことを何も知らなかったモネが、知識を身につけたからできる最高のプレゼント。そして、切り株のすぐ横には新しい芽が伸びていた。思わず唸る伏線回収。画面の向こうに拍手を送りたくなる、爽やかな旅立ちでした。

さらに、そこに菅波先生という魅力的なキャラクターが加わり、モネと菅波のじれったくも甘酸っぱい恋に朝から心臓が高鳴りっぱなし。観るたびに違う感動がある。観るたびにいとおしさがこみ上げる。今年を代表する1本として、いえ、僕の人生に寄り添い続ける1本として、『おかえりモネ』はずっとずっときらめき続けることでしょう。あの七色の「彩雲」のように。

構成/山崎 恵
 


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