国民の思いを第一に考えた陛下の「東京オリンピックの開会宣言」
2021年の夏は、前年に行われるはずだった2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会が、コロナ禍のために一年遅れで開催されました。オリンピックとパラリンピックの連携一体化の観点から、両方の大会ともに陛下が名誉総裁を務められました。
7月23日から8月8日まではオリンピック、8月24日から9月5日まではパラリンピックが開催。このとき、オリンピックでの陛下の開会宣言が話題になりました。
天皇陛下は、このように宣言されたのです。
私は、ここに、第32回近代オリンピアードを記念する、東京大会の開会を宣言します。
IOC(国際オリンピック委員会)が決めている原文のcelebretingを「祝い」ではなく「記念する」と訳した日本語で開会宣言をされました。
「コロナ禍で苦しんでいる人が多い中で、お祝いなどの祝祭とする言葉は使えない、とお考えになったのだろうと思います。
国民の置かれている困難な状況を踏まえてどう行動するかを常に考えているお立場だからこそ、あのように表現にされたのでしょう」
雅子さまは開会式への出席を見合わせました。新型コロナウイルスの感染拡大で、開会式の出席者が絞られたことに対する配慮でした。
この判断も国民の気持ちに寄り添ったものといえるでしょう。
「陛下と雅子さまは、常に国民の立場に立って発想されます。コロナ禍に配慮するお気持ちを伝えたかたちになりました」
国民に安心感をもたらした愛子さまのドレス姿
12月1日には愛子さまが20歳のお誕生日を迎えて成年皇族となられました。成人の行事は、誕生日当日の1日と5日に分けて行われました。
また、これまで20歳を迎えた女性皇族は、皆さん事前に記者会見を行っていましたが、これも22年春に先延ばしになりました。つまり成人の儀式を日曜日に、記者会見も大学の春休み期間に設定したわけです。
従来とは異なった形式になった背景には、大学のオンライン授業で多くの課題・レポートなどを抱えて多忙な日々を送られている愛子さまが、キチンとした形で「成人の思い」を国民の皆さんに伝えられるように考慮した両陛下の愛子さまへの深い思いが込められていました。
9日には雅子さまが58歳のお誕生日を迎えられ、そのご感想の冒頭で愛子さまの成人について触れられました。
……5日に行われた成年の行事もおかげさまで無事に終えることができ、安堵いたしました。……あの幼かった愛子がもう成年かと思いますと、信じられないような気持ちもいたします。皆様には、これまで愛子の成長を温かく見守っていただき、心から感謝しております。愛子には、これからも様々な経験を積み重ねながら一歩一歩成長し、成年皇族としての務めを無事に果たすことができますよう願っております。……
「母親として愛情があふれる文章です。ご感想の冒頭に愛子さまの成人の一連の動きを持ってきたところに、雅子さまの思いがにじみ出ています。
20年の歳月を振り返った時にさまざまな思いがよぎったことでしょう。
結婚後8年間子どもができず、そのために結婚すればできると思っていた皇室の親善訪問も、長い間事実上封じられたこと、そのために自分のキャリアを生かし切れなかったこと、さらにお世継ぎへの期待とプレッシャーもあり、そしてやっとの思いで生まれたのが女の子であり、男子でなかったことに陰の批判がありました。
さらに、愛子さまが言葉に遅れがあるとか、話さないのではないかという根拠がはっきりしない海外メディアの記事も出たりして、かなりのストレスがあったと思います。
このため天皇陛下(当時の皇太子さま)が自ら東宮御所内で撮影した動画を公表することもありました。そのことに関しても、雅子さまは『愛子の了解を取らずに公表することになった』ことにも悩んでいました。
そして、小学校に入学してから教室の中にまで入り込む”同伴登校”や旅行にも同行したことなどが雅子妃バッシングとしてマスコミ批判となって表れました。
当然、ご自身の病気のこともあります。そうしたさまざまな動きがあり、それらを一つ一つ乗り越えた先に愛子さまの成人がありました。
その経緯を一番よく知っていた雅子さまは、その思いを感想の冒頭に持ってきたのだと思います」
一方で、雅子さまのご体調も気になります。
「今のところ落ち着かれています。完全に体調が戻られているわけではありませんが、ほとんどのご公務をお2人でご一緒に取り組まれています」
普通の家庭であっても、娘の行事の支度には母はとてもエネルギーを使うもの。ましてや皇后である雅子さまのお気遣いはたいへんなものだったことでしょう。雅子さまの頑張りのかいがあって、ローブ・デコルテを身にまとった愛子さまの美しさに、国民は魅了されたのです。
その姿は多くの人々に安心感を与え、明るい未来を予感させるような輝きを放っていました。愛子さまの今後のご活動が楽しみです。
●大久保和夫(おおくぼ・かずお)
毎日新聞客員編集委員。宮内庁を中心に、皇宮警察をはじめとする皇室関連の取材を続けている。皇室を通して日本と日本人について考えることを大きなテーマにしながら、70歳を過ぎても現役記者として活動している。
●聞き手
高木香織(たかぎ・かおり)
出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に、『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(こう書房)、『美智子さま あの日あのとき』カレンダー『永遠に伝えたい美智子さまのお心』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へ―』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、 『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。
取材・文/高木香織
構成/片岡千晶(編集部)
第1回「2021年の皇室「眞子さんの結婚に揺れた秋篠宮家の長い1年」」>>
- 1
- 2
Comment