踊ってみたら、見えたもの


「ふ、ふ、ふ。我ながら気味が悪いわ……」

ホテルの部屋に前のめりに戻った智美は、東京からこっそり持参した部屋の飾りつけグッズを使って「本人不在のぼっち誕生会」の準備を完了させた。

キラキラの「HAPPY BIRTHDAY」ガーランドが質素なビジネスホテルをますますシャビ―に演出している。

ケーキの周りに小さな花を飾ってから、スマホで撮影した。

Twitterやインスタであれこれ調べて、ファンは推しの誕生日をこんなふうに祝うというのを見たとき、頭の中は「?」でいっぱいになった。だがどうだろう、やってみるとひたすら楽しい。究極の自己満足といったところか。

踊る阿呆に見る阿呆、どうせ阿呆なら踊らにゃ損、損。

「よしよし、オードブルとワインもデパ地下で仕入れたし。夜はこっそり晩酌しちゃお」

思えばもう長いこと、仕事や子育て、家事、斗真の学校行事や受験のサポートなど、目の前のやらなくてはならないことに追われてきた。

「映える」角度を考えながら、スマホで撮影しつつ、智美はここ数年のあれこれを思い出していた。

3年前に義母の認知症が進んでからは、きつかった。

 

運よく施設に入れたものの、義母の顔を見るたびに、他人に任せざるを得ない罪悪感がぬぐえない。

幸いにも保険をかけてくれていたおかげで、昭一や兄弟の経済的負担はさほどなかったけれど、見舞いや事務的な段取りなどを自分の家のことと並行するのは予想以上に大変だった。

 

誰しもが衰えていく。

この先の人生後半、絶対的に楽しいことよりもしんどいことが増えていくという事実を突きつけられたような気がしていた。

そんな日常のどうすることもできない葛藤や不安を、智美は放りだしはしなかったと思う。両方の手に持った、抱えきれないほどではない、でも軽くなりようがない荷物。

「よっこらしょ」と何度も持ち直して、歩いた。できるだけ前向きに、足元だけを見て。

そんな毎日に、3か月前、極めてお気楽な光がさした。

偽物かもしれない。おもちゃみたいなまやかしだろう。それでも、その光は能天気に、こちらの都合も事情もお構いなしに、まっすぐにさしてきた。

最初はひたすら戸惑った。なんせ久しぶりの、「不要不急のどきどき」なのだ。

その高揚に身を任せてみたところ、こんなふうに札幌まで来て、しょうもない遊びをすることになるとは……はっきり言って飛び跳ねたいほど、楽しい。自然に口元がまあるくほころぶ。

智美は、そんな自分を取り戻したことがなんだか嬉しくて、ベッドにぼふん、とダイブした。同時に、スマホから着信音が流れた。