「わあ、CAさんだ! 素敵~! みなみ、どうやったらなれるのか聞いてきてもいい?」

歓声のしたほうを見ると、搭乗口の近くに母娘がいた。女の子は7、8歳といったところ。可愛らしい声に結子の口元もほころぶ。やはりこのコンコースを歩くCAは注目を浴びるものなのだ。女の子に質問されたらば、いつもフライトバッグに入れている飛行機のシールとポストカードにメッセージを書いて渡してあげよう。

駐在員の家族だろうか、すっぴんにリラックスウェアで深夜便に慣れている様子の若い母親が優しく娘を諭した。

「お仕事の前でお忙しいだろうから、機内でお時間ありそうなときにしよ?」

「やだ、今すぐがいい! 私、きいてくる!」

そしてあっという間に駆け寄ってきた女の子は、CA行列の先頭を歩く結子のところまで来ると、おずおずと上目遣いで尋ねた。

「あの……どうやったらCAさんになれるか、お姉さんたちに聞いてもいいですか、『先生』?」

 


CA、職を失ってYouTuberになる


「まったく失礼しちゃう! 私のどこが先生なの? っていうか先生ってなによ、いくらチーフの制服がデザイン違うからって先生なんて乗ってないわよっ」

 

NYのステイ先のホテルに着くなり、結子は十数時間前の衝撃のセリフを思い出してひとりぷりぷりしながら制服を脱いでクローゼットにかけた。感染症の流行で、国際線のフライトは大幅に減便した。そのためこのNYフライトはじつに3か月ぶりの国際線。この1年半は、研修やら地上業務、あるいは自宅待機が増えていた。

制服を脱ぐと、バスルームの前にコンパクトだが壁に全身が映る鏡があって、結子はそこで改めて自分の姿を確認する。

「うーん、やっぱりフライトが減って体の線が緩んでる……!?」

あの女の子の言葉は、子どもらしく正直なのだから、厳粛に受け止めなくてはならない。彼女の目から見て、明らかに結子は若いCAを引率する先生に見えたのだ。由々しき事態ではないか。結子はこの仕事が大好きなのだ。結婚の予定もないし、まだまだこの制服を着てバリバリ乗務をする予定だ。もちろんそこらの新人CAにサービスレベルや立ち居振る舞いで負けるはずもないが、見た目だって見劣りする訳にはいかない。

ほんとうは、ステイ先についたらプールやジムで汗を流し、時差ボケ対策と現地でご馳走を食べる分動くのがルーティン。でもコロナの影響で、ステイ中は部屋にいなくてはならないのでそうもいかない。

「そうだ、杏里が言ってたCAステイ用のエクササイズ動画っていうの、検索してみよう」

持って来たスウェットに着替え、おもむろにアロマを炊くと、結子は動画を検索した。さっそくスマホに動画が並ぶ。検索結果を見て思わず絶句した。

「うわ、まさか……CAって今こんなこともしてるの!?」