「今週末、エシャンジュ行くつもりなんだけど、愛莉も興味ある?」
グループのひとりに声をかけられ「予定があるから」と曖昧に首を振る。
Échange linguistique(エシャンジュ・ラングスティック)=言語交換。
外国人同士、お互いの国の言語を教え合おうという仕組みで、私たちの中で「エシャンジュ」といえば、もっぱらフランス語を学ぶ日本人と、日本語を学ぶフランス人の日仏交流会のことを指す。
いくら学内にフランス人学生が溢れていたとしても、自動的に友達になれるわけじゃない。特に院生ともなれば、皆はっきりとした目的があって勉強のために来ている。講義が終われば無駄口も叩かずさっさと帰ってしまうので、親しくなる機会がない。清々しいほどの個人主義なのだ。
フランス人の友達がほしいと切実に望んでいる外国人留学生は多い。エシャンジュはその望みをウィン・ウィンの関係で叶えてくれる場ではあるのだけど、ナンパ目的で参加する者もいると聞き、私はずっと敬遠していた。
でも夏休みの終わり、ようやく目標枚数まで論文が進んで一安心した時、はたと気付いた。
――パリに来て一年経つのに、まともに話したフランス人って、教授だけ……
ショックだった。
ソユンとは夏休みの間も何度か会っていた。フランス人の友達に論文を読んでもらい、アドバイスや手直しをしてもらったと聞いたとき、心底羨ましかった。
――私にも親身になってくれるフランス人の友達がいたら、心強いのに。
もはや「友達がほしい」より「頼れる人がほしい」。いてもたってもいられなくなり、近々開催されるエシャンジュを探した。
大いなる期待――そう、正直なところ「カワイソウなガイコク人を助けてくれるスーパーマン」との出会いを期待して出かけたのだ。
NEXT:1月27日(木)更新(毎週月・木・土更新です)
20名ほどが集まったエシャンジュの空気に、愛莉は居心地の悪さを感じ帰ろうとしたところ、ギヨームに声をかけられる。
<新刊紹介>
『燃える息』
パリュスあや子 ¥1705(税込)
彼は私を、彼女は僕を、止められないーー
傾き続ける世界で、必死に立っている。
なにかに依存するのは、生きている証だ。
――中江有里(女優・作家)
依存しているのか、依存させられているのか。
彼、彼女らは、明日の私たちかもしれない。
――三宅香帆(書評家)
現代人の約七割が、依存症!?
盗り続けてしまう人、刺激臭が癖になる人、運動せずにはいられない人、鏡をよく見る人、緊張すると掻いてしまう人、スマホを手放せない人ーー抜けられない、やめられない。
人間の衝動を描いた新感覚の六篇。小説現代長編新人賞受賞後第一作!
撮影・文/パリュスあや子
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