パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第3弾がスタート!

 
あらすじ
パリの大学院で「映画理論」を学ぶ愛莉あいり。流れで一夜を共にしたフランス人のギヨームからは、はっきりと愛を告げられたわけではなく、関係を確認できずにいる。そんな愛莉に「金曜の夜、映画を見に行こう」とギヨームから連絡がきてーー。
 


「街角にシャンソン」(1)


1.
――私たち、付き合ってるのかな?

パリの大学院で修士課程2年目が始まって、早一週間。一言一句、教授のフランス語に耳を傾けても容易には理解できない講義だというのに、私はつい関係のないことを考えてしまう。

詩的な言い回しや比喩を好む教授の話は、具体的な意味を結ばずに頭を素通りする。代わりに浮かぶのは、ギヨームの摑みどころのない笑顔ばかり。

ギヨームとは夏休みの終わり、流れで始まった関係だった。その後、ほぼ毎日メールはしているものの、彼の家で一夜を過ごした後、デートはたった一度ランチを共にしただけ。告白はもちろんのこと、甘い言葉をかけられたことさえない。

フランスって「ジュテーム(愛してる)」を連発する国じゃなかったの?