超高齢社会を生きる私たちが望むのは、ただ長生きするのではなく、“死ぬまで元気”でいること。なるべく人の手を借りず、最期まで自立した生活を送りたい。そのために、今すぐできることは何か。NY在住の老年医学専門医、山田悠史先生の新刊『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(6月24日発売)から、その答えをひとつご紹介します。

健康診断などの検査を受けるうえで知っておきたいことの一つに「ラグタイム(英語では”Lag Time to Benefit”と呼ばれています)」という考え方(参考文献1)があります。日本語では「タイムラグ」と言う方が馴染みがあると思いますので、ここからはタイムラグという言葉に置き換えたいと思います。

 


検査の「異常」は健康の害とは限らない


まず前提として、検査や治療が必要かと考える際に、私たち医師は検査や治療の「益」と「害」を天秤にかけたうえで必要性を判断しています。

“治療”の益と害というのは比較的わかりやすいと思いますが、シンプルに言い換えると効果と副作用となります。一方、“検査”の益と害というのは少しわかりにくいかもしれませんので補足をします。

例えば、健康診断における胸部X線検査でいえば、「益」は必ずしも「胸部X線で異常を発見できる」ということではありません。実際、異常を見つけただけでは、検査を受けた人にはまだ何のメリットにもなっていません。仮に、まったくその人の健康を害することのない「異常」が認められた場合、一時的な不安を抱かされただけになってしまう可能性もあります。

 

健康診断を受けた人の益となるのは、その人の病気を早期発見し、適切な介入をすることで健康が守られることにつながった時です。その時に初めて「益」となるのです。

胸部X線を行なって肺がんが見つかったというだけでなく、早期に治療されて根治した、もし胸部X線を行なっていなければ、発見が遅れて根治できなかったという場合に、この時の胸部X線検査は「違い」を生み、益があったと考えられます。