見破れなかったのは「不自然さ」がなかったから
もちろんチューリング・テストをクリアしたからと言って、その人工知能が人間と同等レベルの知能を持つとは限りませんが、人工知能の分野では長い間、チューリング・テストをクリアできる人工知能を作ることが一つの目標となっていました。
これまでは、チューリング・テストをクリアできる人工知能を作ることができていませんでした。やりとりの中にどうしても不自然な部分が出てしまい、人間ではなく人工知能だと見破られてしまっていたのです。
ところが、先ほど紹介したブログ記事は、GPT-3が書いたにもかかわらずほとんど誰にも見破られなかったことを考えると、GPT-3はチューリング・テストに合格したと言えるかもしれません。
簡単なオーダーで文章が即完成。そんな時代がくるかも
現時点でさえGPT-3の書く文章が人間が書く文章と区別がつかないことを考えると、数年後には、多くのブログやニュースがGPT-3などの人工知能によって書かれる時代が来るのかもしれません。本を書くには非常に多くの時間がかかりますが、数年後には「脳と人工知能の最新研究に関する内容で、12万字くらいの文章を書いて」とGPT-3にお願いすれば数分で書いてくれるようになるのかもしれません。筆者(紺野)は、そんな時代が一日でも早く来ることを切に願います。
著者プロフィール
池谷 裕二(いけがや・ゆうじ)さん
1970年、静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。現在、東京大学薬学部教授。脳研究者。海馬の研究を通じ、脳の健康や老化について探求を続ける。日本薬理学会学術奨励賞、日本神経科学学会奨励賞、日本薬学会奨励賞、文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞、塚原仲晃記念賞などを受賞。現在、「ERATO 池谷脳AI融合プロジェクト」の研究総括を務める。主な著書に『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』(ともに講談社ブルーバックス)、『海馬』『脳はこんなに悩ましい』(ともに共著、新潮文庫)、『脳には妙なクセがある』(新潮文庫)などがある。
『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』
著者:紺野大地、池谷裕二 講談社 1760円(税込)
脳と人工知能の融合――そんなSF映画のような話が、今実現しようとしている!? 最新の研究事例を紐解くことで見えた人工知能の「今」、そして「近未来」について専門家ふたりが多角的に解説。「人工知能は東大に合格できる?」「英語を学ばなくても良い時代がやってくる?」「人工知能が生き方を決めてくれる?」など、気になるトピックスからでも楽しく読めます。人工知能の大いなる可能性とリスク、その「最前線」を学べる一冊。
構成/金澤英恵
紺野大地(こんの・だいち)さん
1991年、山形県川西町生まれ。2015年、東京大学医学部卒業。2018年、東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院 老年病科 医師。現在、「ERATO 池谷脳AIプロジェクト」のメンバーとして研究に携わっている。脳・老化・人工知能の研究を通じて、「脳の限界はどこにあるのか」、「新たなテクノロジーによりその限界をどこまで拡張できるのか」を探究している。Twitter(@_daichikonno)やメールマガジン「BrainTech Review」で脳についての最新研究を分かりやすく紹介し、神経科学のファンを増やすことがライフワークの1つ。