フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第3弾。日本からフランスの大学院へ留学した愛莉。フランス人男性と一夜を共にし、距離を縮めるもお互いの気持ちを確かめられずにいます。

 
あらすじ
パリの大学院で「映画理論」を学ぶ愛莉あいり。流れで一夜を共にしたフランス人のギヨームからは、はっきりと愛を告げられたわけではなく、関係を確認できずにいる。そんな愛莉に「金曜の夜、映画を見に行こう」とギヨームから連絡がきてーー。
 


「街角にシャンソン」(4)


4.

〈映画の後、夕飯は?〉

金曜夜の映画デートについて、深夜にようやくギヨームから返信があった。

――前回と同じ流れ……これはやっぱり「お泊まりコース」⁉

そうに違いない。告白と同じで「言わなくてもわかるでしょ」ということなんだ、きっと。でもお泊まり道具一式をいそいそと用意していくのもダサいような……

さらりと聞いてしまえばいいだけなのに、その勇気が出ない。

――私はフランス人と、ギヨームは日本人との出会いを求めていただけで、気が合えば誰でも良かったのかも?

スムーズすぎた甘美な夜から時が経つほど、そんな疑念が膨れ上がっていた。近づいたはずが、むしろ遠ざかってしまったような心許なさ。

当日は悩みに悩んだ末、必要最低限のかさばらないアメニティをバッグに忍ばせ、大学院に向かった。

講義の後、待ち合わせ時間まで図書館で自習するつもりだったけれど、全く気がのらない。しばらく論文資料と睨めっこを続けたものの、今日はもう無理と諦めて、映画館に近いリュクサンブール公園をぶらつくことにした。