「そのときは、そのとき」と考える

 

田原 多くの男はひとりになると寂しいだろう、そういう先入観があるから怖いのであって、やってみたらたいしたことはない、とわかるはずだと。でも、僕は実際にひとりになったけど、寂しいし、孤独だよ。

下重 田原さんの場合は、奥さまが亡くなってひとり暮らしだけど、四六時中娘さんたちに囲まれているじゃないですか。それはほんとうにひとりになったとは言えません。覚悟を決めて、一度ほんとうにひとりになってみてはいかがですか。そうすれば、きっとひとりで生きるという自信がつくと思います。

 

田原 案ずるより産むが易し。幽霊の正体見たり枯れ尾花ということもあるかもしれないね。

下重 それは女性にも、ぜひ言いたいです。金銭的な面も含めて、亭主が先に死んでしまったらどうしようとか思っているわけでしょう。死んでしまったら、もう帰ってこないのですから、自分ひとりは自分で養う訓練をしておくべきだと思います。

田原 下重さんは、そのときに備えて今みたいな暮らし方をしているわけ?

下重 そのためじゃないですよ。でも戦争が終わって大人たちが180度変わったのを見て、自分ひとりは自分で食べられないと、言いたいことも言えないと思ったのです。もちろん、うちのつれあいがいつ、いなくなるかはわかりません。「そのときは、そのとき」と、どこかで思っています。実際には、私だってひとりになったら寂しいだろうなと予想することはあります。でも、現実問題として今、夜遅くなどひとりで過ごす時間は、ほんとうに満たされた気がするんです。やっぱり、ひとりはいいねって、つくづく思うのです。だから、田原さんもぜひ、ほんとうのひとりの時間を満喫してください。