わくわくしながら新しい家族を迎え入れた日、突拍子もない行動に家族みんなが笑顔に包まれるいつもの夜、そして静かに訪れる旅立ちのとき……。佐竹 茉莉子さんの新著『猫との約束』は、猫と暮らす人々が、様々な思いを持ってその一瞬を噛み締め、ささやかなドラマを紡ぎあげていることを教えてくれます。フェリシモ猫部のブログ『道ばた猫日記』やペット情報サイトsippoの連載『猫のいる風景』で、長年にわたり「人間と猫」を見つめてきた佐竹さんの新著から、今回は特別に2つの家族をご紹介します。

『猫との約束』(著:佐竹 茉莉子/辰巳出版)


笑いを忘れていた

はじめに紹介するのは、裕子さん家族と、保護猫シェルターから迎え入れた3匹の猫たちの物語です。

裕子さんの家で3匹仲良く暮らすのは、前髪片流れのキジ白・愛美(あみ)、鼻先の黒いキジ白・紡希(つむぎ)、そして背中もキジ柄の心愛(ここあ)。

 

実は3匹がやってくる前、裕子さんはそれまで看病を続けてきた2匹の愛猫たちを、立て続けに見送ったばかり。以来、笑いを忘れた日々を送っていたのだそうです。

「日常から、色がなくなった。つらくてつらくて、どうにかなってしまいそうだった。見かねた友人が、近くの保護猫シェルターを教えてくれた。“また、猫を迎えたら”と」

 


どの子も残せはしない


裕子さんの友人が教えてくれた保護猫シェルターに連絡すると、山道で見つかった生後2ヵ月ほどの4兄妹が保護されていました。1匹は男の子ですでに譲渡先が決まっていたため、裕子さんは悩みます。

「残るは3姉妹。どの子もどの子も可愛すぎて、1匹だけなど選べない。2匹を選べば、残される1匹がふびんだ」

悩みに悩み抜いたのち、覚悟を決めて3匹の猫たちを迎え入れることにした裕子さん。
愛美、紡希、心愛がやってきてからの様子を、著者の佐竹さんは温かな眼差しでこう綴ります。

裕子さんの日常に色が戻った。気がつくと、笑顔も戻った。
姉妹は、お父さんもお兄ちゃんたちも、大好きだ。帰宅時には、いそいそと玄関に出迎え、我先に「遊んで遊んで」と追いかける。
長男は、足元にまとわりつく3匹を「踏んじゃうよお」とうれしそうに撫でまわし、いつもこう言う。
「あー、時間がない。こんなことをしてる場合じゃない、学校行かなきゃ。だけど、カワイイ。あと10分だけ。あと5分だけ……」

通学のためにひとり暮らし中の次男は、3匹を迎えてからは、週末ごとに帰ってくるようになった。そして、「帰りたくなぁい」と言いながら帰っていく。

「1匹でいい」と言っていた夫は、可愛いとはけっして口にしない。だが、食事中に膝に乗ってきてもそのままなので、可愛くてたまらないのが、もう家族にバレバレだ。

ずっとずっと、仲よく笑顔で暮らそうね


3姉妹は個性もばらばら。でも、裕子さんが仕事から帰ると「撫でて、撫でて」と頭をすりつけてきたり、休日に「遊ぼう遊ぼう」と大騒ぎするときはみんな一緒。裕子さん家族の笑顔の中心には、いつも3匹がいました。

「あのとき、思い切って3匹とももらってきてよかった」と、裕子さんはつくづく思う。再び、こんなにも愛しいと思える存在を持てたなんて。天国の子たちも、笑顔を取り戻した自分を見て、喜んでいるだろう。

3匹の天使たちは、我が家にしあわせを運んできてくれた。
お返しは、これからも、ずっとずっと仲よく暮らして、その一生を見守ることだ。

写真は、窓辺から外を見つめる愛らしい3匹。愛美の隣にそっとたたずむ2匹の“招き猫”たちも、まるで姉妹のようです。愛美、紡希、心愛は招き猫以上に、裕子さんの元に笑顔と幸せを運んできてくれたのかもしれません。


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佐竹さんのカメラが捉えた猫たちの愛おしい表情
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1枚目:南房総で暮らす秀行さん・千恵さんに雨の中で保護されたテト。千恵さんは、譲渡の話がキャンセルになったとき、「うちの子にしよう」と決めた。
2枚目:野良猫だった母猫と3匹の子猫を保護した陽子さん。86歳の母・きよ子さんの部屋を「マイルーム」としてくつろぐタマは、その時の母猫だ。(『猫との約束』より)