「やることがない」という悩みについて
定年後の悩みとしてよく話題に上るのが「やることがない」という問題。80代半ばを過ぎても精力的に仕事をこなされている田原さんと下重さんは、その問題を客観的に見つめ、気持ちいいまでに本質をズバリと突くのでした。
田原 定年を迎えて年金生活をしている人からよく言われるのが、田原さんはずっと仕事があってうらやましい、ということです。どう思います?
下重 そういう人は多いですね。多分仕事は与えられるものだと思っているのではないでしょうか。仕事は自分で選ぶものだという意識がないのでしょう。口を開けて待っていても何も始まりません。自分で見つけなきゃ。
田原 僕に言わせると、見つからないのは探したことがないからだ。それは仕事に限らずだけど、やることがないっていうのは、探していないことの言い訳です。
下重 そう、本気で探せばやりたいことは必ず見つかります。しかも、それは年齢とは関係ありません。ところが、世間には、80歳になったからどうだといった、やたらと年齢で生き方を限定する風潮がある。あれはほんとうに気になります。
年齢で自分の行動を制限する人の本質
田原 雑誌でも「80歳からはこれをするな」「80歳までにこれをしろ」といった記事が多い。下重さんは、そういうことには興味がないわけだ。
下重 まったくありません。そもそも私は自分が80歳になったという感覚すらありません。感覚がないのに、なんでそこにこだわる必要があるんですか。80になったということが、まず先に頭にあるから、これをやろうとか、やめようということになる。でも、それはなんの意味もありません。何ができるかは、自分の身体に聞けばいい。私の身体は80という戸籍上の年齢よりもずっと若いですから、それに合わせて生きています。
田原 そうか、同じ80歳でも元気な人もいれば、もう棺桶に片足を突っ込んでいる人もいる。それを80歳という年齢で一律に考えるのは間違いだと。
下重 雑誌やテレビで誰それが言っていたとか、誰それが立派な賞を取ったらしいといったことを気にするのも同じです。他人のことや、評価など気にする必要はありません。自分を基準に考えればいいのです。私は今年85歳になりましたけど、それがどうした? という感じですね(笑)。
田原 年齢のことばかり気にするから不安になる。周りに踊らされず、堂々としろ、と。
下重 年齢を気にするというより、枠のなかに入りたいのかもしれません。自分で枠を作って、安心したいのではないでしょうか。「もう80だから無理だ」とか、「もう80だからこれでいい」と言っておけば、実はそのほうが楽ですから。楽がしたいならそれでも結構ですが、それなら現役で仕事をしている人をうらやましいと言うべきではありません。
田原 誰かに迷惑を掛けるようなこと以外は、もう好きにやれと。そういうことですね。
著者プロフィール
田原総一朗(たはら そういちろう)さん:
1934年、滋賀県生まれ。1960年、早稲田大学を卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に入社。1977年、フリーに。「朝まで生テレビ!」「サンデープロジェクト」「激論!クロスファイア」など、テレビ・ラジオの出演多数。著書に『令和の日本革命 2030年の日本はこうなる』(講談社)、『自民党政権はいつまで続くのか』(河出新書)など。
下重暁子(しもじゅう あきこ)さん:
1936年、栃木県生まれ。1959年、早稲田大学を卒業後、NHK入局。アナウンサーとして活躍後、フリーに。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。公益財団法人JKA会長、日本ペンクラブ副会長などを歴任。著書に『家族という病』『極上の孤独』『明日死んでもいいための44のレッスン』(以上、幻冬舎新書)、『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)など。
『人生の締め切りを前に 男と女、それぞれの作法』
著者:田原総一朗/下重暁子 講談社 924円(税込)
気鋭のジャーナリストとベストセラー作家。80歳を超えても第一線で活躍する二人が、「人生の締め切り」が見える年齢に達したことで得られた感じ方や生き方を、男女それぞれの異なる視点から語り合う対談集。配偶者に先立たれた際の男女の違い、生前から死後の手続きを始めることの是非をはじめ、高齢化社会を生きる上でのヒントとなる対話が満載です。
構成/さくま健太
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