超高齢社会を生きる私たちが望むのは、ただ長生きするのではなく、“死ぬまで元気”でいること。なるべく人の手を借りず、最期まで自立した生活を送りたい。そのために、今すぐできることは何か。NY在住の老年医学専門医、山田悠史先生の新刊『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(6月24日発売)から、その答えをひとつご紹介します。
医療における「Matters Most to Me」について考えてみたいと思います。これは「私にとって最も大切なこと」という意味で、個々人の人生そのものですが、医療の現場にも大きな影響を与えます。実際にどのような影響があるのか、私の体験をお話します。
仕事、家族、お金。最も大切なことは何か
ある年の暮れのことでした。
「年末年始は一番仕事が忙しい時期で、こんな時に体調不良でまいっちゃったよ。ただの風邪だと思うんだけど」
そんなことを教えてくれた患者さんの診察をしていると、「ただの風邪」ではないことにすぐに気がつきました。顔色が悪く、眼瞼(がんけん)結膜には貧血がありました。手のひらの赤みも見られず、重度の貧血があることにすぐに気がつきました。
「すぐに血液検査をしましょう」
そういって血液検査をしてみると、予想通り重度の貧血があり、おまけに血液中に見られてはいけないものが存在していることがわかりました。血液のがん細胞です。
強くがんを疑い、すぐに骨髄検査と呼ばれる追加の検査を行うことにしました。その後、検査室の顕微鏡を覗きにいくと、やはりがんであることがすぐに確認できました。
私は自分の中で生じたいろいろな思いを整理しながら、丁寧に告知をしました。そして最後にこう告げました。
「今日から入院をしませんか」
しかし、本人も奥様も、どうしても今日は帰らなければならず、仕事が落ち着く年明けからにしてほしいと懇願をされました。その後30分ほどでしょうか、話し合いを続けましたが、二人は帰宅する決断を変えることはありませんでした。その決断を尊重し、輸血だけして帰宅となりました。帰り際に一つだけお願いをしました。
「仕事、家族、お金。大切なものがたくさんあると思いますが、最も大切にしていることは何でしょうか。もう一度じっくり考えておいてください」
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