言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。
これは人生のささやかな秘密と、その解放の物語。
第20話 桜子さんにはなれなくて③
「じゃあ結子さん、新人CAの教官になったんだ。『スチュワーデス物語』で風間杜夫(もりお)がやってた鬼教官の役どころだね!」
「さすが久住さん、同世代……杜夫。まあ私も、そのつもりで行きました。でもいきなり終了時刻聞かれたり、辞退のリミットきかれたり、ぜんぜん気合いが違うんです、あの子たち」
結子は、昼間のモヤモヤを飲み込むようにぐいっとビールを飲んだ。久しぶりに会えた久住の前で、もっと洒落た話をしたかったけれど、気がつけばここ最近の異動の顛末について洗いざらい話していた。
新聞記者というイメージからは遠く、のんびりした口調、タートルにチノパンがしっくりくる飄々とした雰囲気の久住。今は生活情報を担当しているらしく、血なまぐさい事件から遠ざかっているせいかもしれない。この小料理屋でしか会えないけれど、結子はいつも彼に会うと肩肘はらずにいろんな話をすることができた。
「そうか、結子さんはもっと新人たちに熱くなってほしいんですね? そうじゃないからちょっとがっかりしている。CAに思い入れの強い自分を馬鹿にされたような気がして」
久住の言葉に、結子はぽかんと口をあけてカウンター席をひとつあけて並ぶ彼の顔を見た。
Comment