代理人を選定している人は2割程度
人生会議でもう一つ大切なのが、「意思決定を代行する人を決めておく」というプロセスです。米国では、”Healthcare Proxy”(ヘルスケア・プロキシー)と呼ばれています。私も外来で、初めてお会いした患者さんには必ずヘルスケア・プロキシーを確認するようにしています。
米国では、ヘルスケア・プロキシーの概念が比較的浸透しており、多くの人が、すぐに誰かを答えることができます。これを書面上や病院のカルテに残しておくことが大きな意味を持ちます。なぜなら、その書面を法的な根拠として、本人の意思確認ができなくなってしまった緊急事態の際に、ヘルスケア・プロキシーを持つ人に連絡をとり、代わりに意思決定をしてもらうことになるからです。
ここで誤解してはいけないのは、決して自分で判断できる時にも意思決定をする人ではなく、あくまで自分ができなくなった時のための人だ、ということです。
厚生労働省が過去に行った調査(参考文献1)では、意思決定できなくなった時に自身の医療・療養の方針を決定する代理人を選定している人は22.0%にとどまっています。
代理人の役割とは、患者が何を望むかを考え、医療上の意思決定を行うことです。代理人は、理想的には、患者がそのような選択を自分でできる時に、患者自身が選ぶべきです。選定をしておらず正式に指定された代理人がいない場合は、近親者がその役割を果たすのが通例です。
例えば、代理人が決まっていない中、妻も子どももいない若者が大きな事故に遭ってしまい、意識を失ってしまった事例を考えてみましょう。
代理人がいない場合には、私の住むニューヨーク州では、まずは配偶者、18歳以上の子ども、両親というように親族の中で順番がつけられ、法の下でその順番に従って意思決定代行人が選ばれていくことになります(参考文献2)。この事故のケースでは、配偶者や子どもがいないので、両親がいる場合、両親の二人が同等の意思決定代理人となります。
二人が同じ方針で確認がとれればよいですが、中には意見が対立してしまうこともあります。実際、治療方針がまとまらなくなってしまうことも稀ではありません。そうなると、時に緊急性も求められる中で難しい決断を迫られることになります。
もし代理人が、患者が何を選択するかを決定できない場合は、「その状態にあるほとんどの人が望むこと」という最善の利益に基づいて決定されることになります(参考文献3) 。本当に本人が望むことかはわかりようがありませんが、それが医療倫理に基づく最善の判断とされるのです。
このような状況も起こり得るからこそ、事前に代理人を選んでおき、その代理人がいざという時の治療方針を決定できるよう準備しておくことが大切とされているのです。
また、アルツハイマー型認知症と診断を受けた場合などには、機を逃さないことも大切になります。まだ認知症の症状が軽いうちには、意思決定代理人を選ぶ判断能力があっても、認知症が進行してしまうと、判断能力を失ってしまうことがあり得るからです。
意思決定代理人に関する残された課題として、代理人は、患者がどのような治療を望むかを正確に予測できないことが指摘されています。本人でない人が選ぶのですから、無理もないといえることでもありますが、例えば、2595組の代理人と患者を対象とした研究では、代理人が患者の選択を正確に予測できたのは68%にとどまったと報告しています(参考文献4)。
しかし、それでも総合的に見ると、現状では代理人を選んでおくことが最善の方法であると考えられています。
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参考文献
1 人生の最終段階における医療に関する意識調査 報告書 平成 30 年 3 月 人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会. .
2 Legislation | NY State Senate. https://www.nysenate.gov/legislation/laws/PBH/2965 (accessed Feb 2, 2022).
3 Emanuel EJ, Emanuel LL. Proxy Decision Making for Incompetent Patients: An Ethical and Empirical Analysis. JAMA 1992; 267: 2067–71.
4 Shalowitz DI, Garrett-Mayer E, Wendler D. The accuracy of surrogate decision makers: a systematic review. Arch Intern Med 2006; 166: 493–7.
写真/shutterstock
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