歳を重ねることの否定は、生きることの否定
「Ageism(エイジズム)」という言葉をご存知でしょうか。エイジズムとは、年齢に基づいた他者あるいは自分自身への固定概念、偏見や先入観、そして差別のことを意味する言葉です(参考文献2)。
エイジズムは、少なくとも世界中の2人に1人が持つ考え方だとされています。これを読んでいるあなたに潜んでいても不思議ではありませんし、著者の私にも多かれ少なかれ存在しているのかもしれません。
「歳だから」
もしこんな言葉が自然に口から出てきたら、少なからずそういった考えがあるのかもしれません。あるいは、私たち医療者にもエイジズムを持つ人が多いことが知られています。
「その症状は、お歳によるものだと思います」
「80歳という年齢的に、この治療はやめておいた方がいいかもしれません」
加齢は、病気のリスクにはなっても、それだけが原因で病気が起こることはありません。
また、同じ80歳でも、一人で自分の足で病院に通ってくる人もいれば、寝たきりで立ち上がることもできない人もいます。「80歳だから」で一緒くたにはできないはずです。
実際、「年齢」の持つ意味は、歳を重ねるごとに薄まっていきます。赤ちゃんの時には皆が似たり寄ったりの特徴を持っていても、年齢とともに個人差が広がっていくのです。にもかかわらず、年齢が上がっていくほど、年齢でまとめた「もう歳だから」という言葉を耳にしがちです。
「もう歳だから仕事はやめた方がいい」
そう言って「まだできる」と思っている自分あるいは他者を納得させ、気がついたら貴重な仕事の機会、社会とつながる機会を先入観で奪ってしまっているかもしれません。
もちろん、これは高齢者だけに起こっている問題ではありません。「あなたはまだ若いから」も同じです。
このように、エイジズムが社会にもたらす影響は計り知れません。エイジズムが身体的・精神的な健康、社会的なウェル・ビーイングに有害であることは、複数の研究から明らかになっており、経済状況に悪い影響をもたらすことも明らかになっています(参考文献3)。
歳を重ねることは生きることです。歳を重ねることの否定は、生きることの否定です。
まずは「歳だから」「まだ若いから」の言葉で思考停止してしまうことに気がつくこと。そしてそのセリフをやめてみること、年齢による先入観を捨て、年齢に関係ない自分のよさに目を向けること。
そうすることで、今まで見えていなかった、また別の価値が見えてくるかもしれません。そして、それこそが老化を防ぎ、「最高の老後」を過ごすための、最も優れた方法になるかもしれません。
年齢に関係なく、安心して暮らせる社会に。「5つのM」を通して、そんなヒントがあなたに見つかっていれば、著者にとってこの上ない喜びです。
前回記事「「家族が大きな病気に...」本人に寄り添い治療方針を決めるステップとは?【医師・山田悠史】」はこちら>>
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参考文献
1 Schaie KW, Willis SL, Caskie GIL. The Seattle Longitudinal Study: Relationship between personality and cognition. Aging, Neuropsychol. Cogn. 2004. DOI:10.1080/13825580490511134.
2 Global report on ageism. https://www.who.int/publications/i/item/9789240016866 (accessed Jan 9, 2022).
3 Mikton C, de la Fuente-Núñez V, Officer A, Krug E. Ageism: a social determinant of health that has come of age. Lancet 2021; 397: 1333–4.
写真/shutterstock
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