言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。

これは人生のささやかな秘密と、その解放の物語。

 


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第23話 シングルマザーの逆転大作戦①

 

桃香は、自分の名前がキライだ。

ももか。響きが甘すぎる。まず頭に浮かぶのはふわふわしたピンク。優しくて可愛らしい女がケーキでも焼いて幸福そうに微笑む姿。

いや、それも偏見に過ぎないのだけれど、それにしたって苦労続きの自分の人生と乖離している。

国見桃香、38歳。低めの声と、長年不動産の営業をやっていて、舐められないように落ち着いた振舞いを心がけていたせいか、40歳過ぎに見られることが多い。仕事でいつも黒いジャケットを着ていて、いつの間にか私服もモノトーンやアースカラーばかりのせいだろうか。身長も168㎝の瘦せ型で、どこをとっても「桃香」風味は皆無だ。

「遅くなっちゃった、もう19時じゃん……今日はパスタ! 決定!」

スーパーで瓶詰めのパスタソースに、ロメインレタスとブロッコリーにチェリートマト、それから大量のマッシュルームとしめじをどんどんかごに入れていく。さすがにパスタだけだと最近一丁前に体重を気にしだした、もうすぐ6年生の娘・佐知が文句を言うだろう。パスタソースにキノコをたっぷりいれて、シーザーサラダは二人分にしてはあり得ないほど大盛にして誤魔化そう。

こんなとき、桃香はちらりと思う。

夫がいたら、こうはいかない。パスタとサラダなんて昼飯じゃないんだからと文句を言うはず。

シングルマザーにもたまにはいいことがあるのだ。