言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。
これは人生のささやかな秘密と、その解放の物語。
第22話 桜子さんにはなれなくて 最終話
「皆さん、今日で教室の訓練は終了です。セーフティー、エマージェンシー、ファーストエイド、サービス。CAに必要な『知識』はすべて教えました。最初はどうなることかと思ったけど、あなたたち、びっくりするくらい頑張ったわ……」
訓練最終日。結子は教え子たちを前に、涙ぐんでいた。訓練センターでの講義や実習を終え、ついに明日から新人たちは実際のフライトで現場訓練が始まる。
当初はモヤモヤやクレーム事件もあったものの、今の結子は訓練生たちに熱血指導する毎日。それなのに明日からはその成長を見られないのかと思うと、教え子たちの顔を見ているだけで鼻の奥がつーんとする。
「教官~! メイク取れちゃいますよ」
一番前の席に座っていた吉田愛理が、笑いながらハンカチを差し出す。タオル地のハンカチには、会社のロゴと飛行機の刺繍がついていて、いつの間にこんなに愛社精神が育ったのかとまた結子の目から涙が噴き出る。
「明日からの……乗務は、先輩CAの動きをよーく見てね。お客様にとって、あなたたちは一人前のCAなんですからねっ」
ひとり鼻の頭を赤くする結子に、後輩たちも「はーいっ!」と元気に返事をする。結子が訓練生だった20年前は逆だった、教官が叱咤激励して、訓練生は感謝と緊張から涙を流したものだったけれど。
――新人類、たくましくて素直じゃないの……!
その日、結子に送られた「訓練同期全員で教官とお揃いオーダー」というフライトバッグにつけるチャームとタグは、その後二度と結子のバッグから外されることはなかった。
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