肩透かしだらけの、フランスの産院


日本とフランスでは妊娠週数の数え方が違う。

 

日本では最後の月経初日を妊娠開始日と見なし、一ヵ月=四週間=二十八日。対してフランスは推定受精日を妊娠開始日として、一ヵ月をカレンダー通りに数えるため、一ヵ月=三十一日、三十日または二十八日とばらつきが出る。

最終的に赤ちゃん誕生までに、日本では満十ヵ月、フランスでは満九ヵ月、とズレが生まれるのだ。

私はスマホに日本の妊娠アプリを入れて日本風に数え、それをリュカにも伝えている。最後の月経初日は元日とわかりやすく、我が家では既に「妊娠四ヵ月目」の算段でいた。

「では次回は九月初旬に」

淡々とした流れのなかで機械的に頷いたが、待て待て。二度目の産院の予約が、出産予定日の約一ヵ月前?

「それまでは月一で助産婦の元に通ってください。必要な検査はご近所のラボを探して。ご覧の通り、うちは人もお金も足りてませんから」

最後はお決まりの冗談なのか、ドヤ顔でほほ笑まれて呆気にとられる。

分業制になっているとはさすが効率的、と感心しつつ、要件毎に担当者も場所も異なり、妊娠期間を一貫して見守ってもらえないというのはなんとなく心細い。

妊娠中の注意事項も簡単に口頭で説明されただけで、妊婦の手引きといったパンフレットでももらえるものと期待していた私は、またも肩透かしを食らう。

リュカが細々と担当医に質問をする横で、私はぼんやりと別のことを考えていた。

――久実子(くみこ)になんて報告しよう……

高校時代からの親友、久実子とは今も月一回は電話をする仲だ。両親にだけは妊娠を伝えていたが、次に打ち明けるとしたら彼女に決まっている。

でも久実子は不妊治療を続けて五年。

ずっと子供に興味のなかった私が先に妊娠してしまったことに、申し訳なさを感じないわけにはいかなかった。

「男性不妊」が判明した、フランス人の年下夫。妻が憤慨した理由とは_img0
 
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日本でのリュカとの最悪の出会い。そして親友・久美子への想いとはーー?

「男性不妊」が判明した、フランス人の年下夫。妻が憤慨した理由とは_img1

<新刊紹介>
『燃える息』

パリュスあや子 ¥1705(税込)

彼は私を、彼女は僕を、止められないーー

傾き続ける世界で、必死に立っている。
なにかに依存するのは、生きている証だ。
――中江有里(女優・作家)

依存しているのか、依存させられているのか。
彼、彼女らは、明日の私たちかもしれない。
――三宅香帆(書評家)

現代人の約七割が、依存症!? 
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人間の衝動を描いた新感覚の六篇。小説現代長編新人賞受賞後第一作!


撮影・文/パリュスあや子
構成/山本理沙