パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、妊娠、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第4弾がスタート!
「プティット・クルヴェット」(2)
2.
「久々にビデオ通話で話そうよ」
――久実子からそう言われていた週末が迫ってもなお、妊娠報告の切り出し方に悩んでいた。自分のデリカシーのなさを自覚しているから、大切な人だけは傷つけまいと、必要以上にうじうじしてしまう。
「久実子さんなら、喜んでくれるよ」
こともなげに笑って、昼からワインを飲むリュカが恨めしい。
彼はフリーの映像編集マンで、自宅で働いている。私もまたフリーのWEBデザイナーとして、日本で働いていた当時からの顧客やパリ在住の日本人相手に家で仕事をしているため、365日中300日以上、夫婦で朝昼晩の三食を共にしていた。
「くっそぉ、私も早くワイン飲みたいなぁ」
「あと数ヵ月の辛抱だって。あ、でも授乳するなら……」
「無理。アルコールなしで育児を乗り切れる気がしない」
ふくれっ面で炭酸水をあおりながら、三年前にリュカと出会った夜のことを思い出す。あのときも久実子と一緒だった。
「甘えてんじゃないよ。日本には〈郷に入っては郷に従え〉って諺があんの」
ワインバーで働いているくせに、ワインに疎いフランス人給仕が私には許せなかった。
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