朝立ちに気づかなくなったら、テストステロン低下のサイン


朝立ちと聞くと、いやらしい話と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、朝立ちは女性の生理に匹敵する、性的興奮での勃起とは全く異なる男の生理です。女性は生理周期が乱れたり、止まったりするとホルモンバランスが乱れていると医師は判断し、その原因をさぐっていきます。男の朝立ちもしかりで、テストステロンレベルと密接に関係しています。

朝立ちの仕組みを簡単に説明しましょう。我々の睡眠は「レム睡眠」(浅い眠り)と、「ノンレム睡眠」(深い眠り)を、約90分ごとにくり返しています。レム睡眠のときに、身体機能調節のため副交感神経が働き、内臓などを動かしているのですが、ペニスも反応し、勃起を繰り返していて、目覚めのときに自覚する勃起が「朝立ち」。

20代の健康な男性なら睡眠中の約半分、50代約3分の1、60代約5分の1は勃起をしていますが、テストステロン減少により睡眠リズムが崩れると、朝立ちがなくなってしまうのです。しかも、朝立ちの喪失は、「血管が硬くなりはじめていますよ」、という見逃せないサイン。放置しておけば、より太い血管の心臓や脳で、心筋梗塞、脳梗塞が起き、突然死につながりかねません。

パートナーの朝立ちに気がつくのは難しいと思いますので、上記の①~⑦で気になることがあれば、男性更年期外来でテストステロン値を測ることを勧めていただきたいと思います。それが愛する人の健康と命を守ることにつながります。

 


男性更年期の診断と治療

「夫が毎日イライラ。こんな人だった?」知られざる”男性更年期”とその治療方法_img3
出典:「男性医学の父」が教える 最強の体調管理 テストステロンがすべてを解決する!/ダイヤモンド社

「男性更年期障害」を疑った場合、訪れるべきは、メンズヘルス外来、男性更年期外来など、男性ホルモンに関する専門知識を持った医療機関です。そこでは、まず健康度のチェックとホルモン検査を受けます。テストステロンは20代がピークに徐々に減少し、20代と比べると40代で約8割、50代で約6割、60代では約5割にまで減少します。検査結果の判定は、年齢も考慮にいれますが、目安はフリーテストステロン10pg/ml前後に下降していて、更年期症状ありと診断されれば治療対象になります

保険適応内では、検査は1万円前後で治療は1回数千円程度。おおむね1回250mgのテストステロンを2~4週に1度のペースで、お尻や筋肉に注射し、日常生活に関するカウンセリングも行われます。

重い場合には、ご本人と相談し、希望があれば自由診療という選択肢もあります。私は長年の経験から、患者一人ひとりの症状に合わせカスタマイズした治療を行っています。テストステロン補充の副作用では、前立腺がん発症や前立腺肥大の悪化は気になるポイントでしょう。必ず専門医の説明を納得がいくまで受けて、判断をしてください。

人生100年時代におけるテストステロン補充の治療や元気ホルモンの医学的有効性について知っていただきたいと思います。新しい時代の健康医学では、元気ホルモンであるテストステロンへの注目度がますます高まっています。

アイコン画像

熊本悦明(くまもと・よしあき)
1929年、東京生まれ。札幌医大名誉教授、みらいメディカルクリニック(東京都文京区)名誉院長。東京大医学部卒業後、同大講師(泌尿器科学講座)を経て、米カリフォルニア大ロサンゼルス校へ留学。68年に札幌医大医学部秘尿器科学講座主任教授に就任し、日本メンズヘルス医学会、日本性感染症学会を創立。2019年、日本泌尿器科学会医療賞、日本抗加齢医学会抗加齢医学功労賞を受賞。著書『男はなぜ女より短命か?』(実業之日本社)、『さあ立ち上がれ男たちよ!』(幻冬舎新書)、『熟年期障害』(祥伝社新書)、『最強の体調管理』(ダイヤモンド社)


取材・文/熊本美加
構成/佐野倫子 


 


前回記事「「思春期の子ども」と「更年期の親」はどう付き合えばいいの?【実践編】」>>