パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、妊娠、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第4弾がスタート!

 
あらすじフランスで年下の夫・リュカの子どもを妊娠した蘭(らん)。初めての妊娠で戸惑う中、さらに胎児のダウン症検査で「要再検査」となり動揺する。日本にいる親友・久美子への報告もためらうがーー
フランスと日本の「妊婦事情」のちがい。ダウン症検査への母の思いは..._img0
 

「プティット・クルヴェット」(3)


3.


「どうもどうも~元気? そっちはサマータイムが始まったんだよね」

久実子のいつものほわんとした笑顔に、私もなるべくいつも通りの顔をする。隠し事をしている後ろめたさを感じながら、のんびり一時間程お互いの近況報告や世間話に興じた。

それじゃ、と切りかけると、

「そうそう、実は、妊娠しまして」

とぼけた顔でするりと報告され、一瞬言葉を失う。

「――ぉォおおめでとうッ!」

自分のこと以上に嬉しい。

聞くと出産予定日も一週間しか違わない。興奮して、考えるより前に「実は私も」と口をついて出ていた。

「蘭のほうがちょっと早いのかぁ。でもまだわかんないよね。子供の誕生日、一緒になったりして」

久実子は目を輝かせた。

そのはしゃぎっぷりに、不安と自信のなさばかりで占められていた私の胸にもじんわり感動が満ちてくる。

「でも実は、ダウン症の検査で――」

口ごもる私を励ますように、久実子は真剣に耳を傾け親身になってくれた。心配させるといけないと親にも黙っていたから、親友に話を聞いてもらえて心のつかえが少し楽になる。