パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、妊娠、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第4弾がスタート!
「プティット・クルヴェット」(4)
4.
フランスでは大きな総合病院以外、医師はアパルトマンの一画を診療室に当てていることがほとんどだ。
遠目にはそれとわからず、建物の入口までやってきてようやく「Médecin généraliste(一般医)」、「Dentiste(歯科医)」といったプレートを見つけて「ここか」とわかる。
初めて助産婦の元を訪れた時、いくつもかかっているプレートを読み間違えて建物をスルーしてしまい、行きつ戻りつしているうちに遅刻するというへまをやらかしてしまった。
「日本人は時間厳守かと思ってたわ」
決して怒っている口調ではないものの、初っ端から悪い印象を与えてしまったかとヒヤリとする。産後まで長くお世話になるので、良い関係を築いておきたい。
「助産婦」と聞き、なぜかふっくら優しい大福のようなおばあちゃんをイメージしていたが、痩せていて背が高く、縁なし眼鏡をかけている目の前の中年女性は、高校時代に苦手だった数学の教師に似ていた。きびきびした物言いもそっくりだ。
てっきり内診があるものと思っていたが、問診だけで拍子抜けする。
ただ、妊娠がわかってから初めて血圧を測ってもらえ「パルフェ(完璧)」と言われ一安心。母が私を妊娠中に高血圧になったというので、自分もそうなるのではと密かに案じていた。
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