人は最後に極上の幸せに包まれる、“老年的超越”という奇跡
実は、これには別の根拠がありました。人間85歳くらいから先には、それまでに感じたことのない多幸感に包まれる“老年的超越”という状態が訪れるという精神医学上の研究結果があるのです。ある種の悟りの境地と言うのか、思考に時間や空間の壁がなくなり､宇宙的な感覚をもつことにより、自己顕示欲も自己中心性もなくなり、全てをありのままに受け入れるようになるので、極めて心地よい精神状態が続くと言うのです。
体力的にみるみる衰えていく70代では逆に不安が募っていくのに、やがて90歳近くなると、それを超越してしまうということ。まさに人生最高の幸せを感じられるようになるのです。まるで長生きしたご褒美のように。それこそ人生最後の十数年、予期せぬ幸せが待っているということなのです。
母親もそういう境地に達したのでしょう。しかも急にお茶目になってしまった母親を見て、こういう歳の取り方なら長生きしても悪くは無いかもしれないと思うほど。一般論からすれば年齢とともに失うものばかりで、幸福感が増えていくと言う想像はなかなかできるものではないけれど、でもある時を境に、心が幸せに包まれるという“ちょっと奇跡的な未来”があるのはどうも確かなようなのです。実際母親を見ていて最近はそれを確信しています。
この数年、次第に変貌していく母親に翻弄されてきました。そして最終的に避けられない加齢という運命を生きている母親の変化に、本人よりも抵抗してきた自分も今は、前向きな諦めによって、それを受け入れることができています。それどころか人間最後に幸せになれることを教えられるという思いもよらない流れに。母親と娘は刻々と関係性を変えながら生きていき、でもやっぱり最後まで何かを学ばされることに今気づかされているのです。
日々辛い介護をしている人もいるのでしょう。自分を嫌いになっている人も。でも、状況はずっと同じではありません。時はまさに刻々と動いていきます。いつかそんな自分を穏やかな気持ちで振り返ることができる日も来るはずです。そして母親はやはり、良くも悪くも娘にいつの間にか人生をシミュレーションをさせ、道に迷わないよう導いてくれる存在なのだと改めて思います。
最後に母親に感謝できる自分でありたいと、今はそう考えるのみなのです。
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