ある日突然いなくなった親友。それから5年という日々を過ごす真奈は、いまだに彼女の不在を受け入れられずにいる――。

彩瀬まる原作の小説を映画化した『やがて海へと届く』は、一人旅に出たまま突然いなくなってしまった親友・すみれの不在を受け入れられず、彼女を亡き者として扱う周囲に反発を覚える真奈の日常を描くことから始まります。すみれのかつての恋人・遠野から、彼女が大切にしていたビデオカメラを受け取る真奈。そこには、真奈とすみれが過ごした思い出が詰まった日常だけでなく、真奈が知らなかったすみれの秘密が残されていて……。真奈は、もう一度すみれと向き合うために、彼女が最後に旅した土地へと向かいます。

 

主演は卓越した演技力で映画やテレビ、舞台とジャンルを問わず幅広く活躍する岸井ゆきのさん。親友のすみれを演じるのは、同じく映画だけでなくテレビやCMなどあらゆる分野でオファーが殺到する浜辺美波さん。『やがて海へと届く』は、今の芸能界を代表するふたりの俳優が共演を果たしたことでも話題となっています。

©️2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会


そばにいたはずの人がいないことは、誰にでも起こり得ること


観終わったあと、すみれと真奈のふたりが相手を思う気持ちが溢れてくるようで、切ないと同時に、すごく温かな気持ちにもなる作品です。おふたりは出来上がったこの映画を観て、どんな感想を持たれたのかを聞いてみました。

浜辺美波さん(以下、浜辺):自分が出演してないシーンもとても多かったので、岸井さんや杉野(遥亮)くんが“いなくなったすみれ”を探してくれているところ、前向きに進んでいく姿だったり、思い出を振り返りつつも“すみれがいないこと”に葛藤する姿などを見るのが初めてで、それをすごく嬉しく感じました。そんなに大事に思ってくれていたんだなぁって、そういうのを感じて切ない気持ちになりつつ、でも温もりもあって、こうやって人は進んでいけるのかもと思いました。

 

岸井ゆきのさん(以下、岸井):この映画は“後ろ姿”を撮っている映画だと思うんです。大切な人を後ろから追っていくというか、誰かが後ろから見ているというか……。誰にとっても“他人事ではない”ということを常に意識して撮影に臨みました。それが映画として、とても巧く表現されているのではないかと思います。大切な人がいなくなってしまう喪失感だとか、未来に何が起こるか分からないということは誰にでも起こりうることですし、それを少しでも心の隅で感じてもらえるような映画になったんじゃないかなって思いました。

 

大学の入学時に知り合い、そこから親友として友情を育んできた真奈(岸井)とすみれ(浜辺)。それぞれの役を演じるにあたって、役作りでは、どんなことを思い、悩み、考えられたのでしょうか。

岸井:年齢を幅広く演じなくてはならなかったので、そこは衣装部やメイク部と相談しながら真奈をつくり上げていきました。浜辺さんとは以前共演したことがありますが、そのときはちょっとドロドロしたお話(日テレ系列『私たちはどうかしている』)だったので(笑)。本読みのときから「前はあんな感じだったよね」と気さくに接してもらったおかげで、真奈とすみれとして「近づいて、いっぱい話さなきゃ!」みたいな感覚はなく、初日からすんなり入れた気がします。ふたりで電車に乗っているシーンなんかも、そのときに素直に反応することで、お互いの関係性はきちんと作れたかなって思いました。

©️2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

浜辺:まずは、真奈ちゃんからすみれが“どう見えているのか”というのが先にあると思うのですが、それが本来のすみれとはまったく違うというのもあって、色々と考えました。真奈ちゃんはすみれに憧れてくれていたと思いますが、すみれはすみれで、自分の核になるものや自分が本当に求めているものを探しながら日々を過ごしていたんだろうと思うんです。原作や脚本もしっかり読み込みましたが、中川龍太郎監督が「すみれはひとつひとつ、何かを落としていく物語の中にいるんだよ」とおっしゃっていて、それもすごく参考になりました。