個人事務所「Desafio」を立ち上げてから、もうすぐ2年。米倉涼子さんはこれまで築いてきたキャリアに甘んじることなく、エンターテイメントショーの開催やNetflixのドラマシリーズへの出演など、新しい挑戦を続けています。人生100年時代、モチベーションを失わずに働くために私たちに必要なものは何なのか。米倉さんの選択には、そのヒントが隠されています。

「事務所に“Desafio(デサフィオ)=私は挑戦する”という名前をつけちゃったから、もう挑戦せざるを得ないんです。そういう状況を作ったのは自分だから仕方ないよね、という思いはあります(笑)。でも本当に、この名前をつけなければ、もっと引きこもっていたかもしれません。

 

環境を変えたことで可能性が広がったからか、新しいアイデアを思いつくことも増えました。みんなが賛成してくれるかどうかはさておき、これをやったら面白そう! と思ったことは、とりあえず口に出してみています。昔からスケジュール帳を埋めるのが好きで、それはずっと変わりません。急にスケジュールが空いたりすると誰に頼まれたわけでもないのに『この期間でこんなことができるんじゃない?』って考える癖が抜けないんですよね。例えばショーをやりたいと思っても急に劇場が空いているわけではないけれど、何事も言ってみないと始まらない。ファンクラブを立ち上げてからは、もっと自分の思いを伝える方法や場所があるのではないか、と考える時間も増えました」

 


体調が思うようにならない経験が
他人への想像力を豊かにしてくれた


新しい挑戦への期待感を抱きながらも「やる気と体調の歯車が合わなくなってきたと感じることもある」という米倉さん。

「たぶん自分の体の状態や年齢を考えずに、提案をしてしまうからなんでしょうね。若い頃、両親を見て年を取ったな、と思うことがあったと思うんです。私も母親が更年期で大変そうだったときはどこか他人事のように思っていたけれど、いざ自分に降りかかると、程度の差はあっても誰もが通らなきゃいけない道なんだなと実感しました。きっとこれから先も同じように感じることが増えてくるだろうから、できる限りの準備をしようと思っています。去年は『ドクターX』のハードな撮影もあり、体調がいいときとそうじゃないときとの差がありました。今は元気ですが、その経験を通して“周囲の人に対する想像力”というものにも変化があったような気がします。元気そうに見えても言葉にはしないだけで何かを抱えているかもしれないーーそう思うと、もっと人を労ろうという思いが以前よりも強くなりました。40代ってすごく楽しいよ! っていう先輩たちが多いですけれど、100%同意することはできないかな(笑)。だからこそ大変な時期を乗り越えて元気に頑張っている年上の先輩たちに対するリスペクトも、より強く感じるようになりましたね」

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最高のパフォーマンスを見せたいという思いは
先を行く人の姿が後押ししてくれる


『シカゴ』でブロードウェイデビューを果たしてから10年。今年の11月には日本人女優として史上初となる4度目のブロードウェイ主演、そして12月にはアメリカ・カンパニーの来日公演でもロキシーを演じます。瑞々しい心と揺らぐ体の折り合いをつけながら、そのときどきで最高のお芝居やパフォーマンスを見せたい。その思いを拠り所に前進しようとするとき、先を行く先輩たちの姿が道を照らしてくれる、と米倉さん。『シカゴ』で共演している女優、アムラ=フェイ・ライトもそのひとり。

「自信を持って再び『シカゴ』の舞台に立つ、というよりも『私大丈夫かしら……』と思っている部分もあるのが本音です。でもチャンスをいただいたからには、挑戦しないという選択肢はないんですよね。60代のアムラもブロードウェイの舞台に立っているし、いつ『シカゴ』が終わってしまうかもわからないから。実は、アムラはずっと演じてきたヴェルマの役をほかの女優さんに取られて何ヶ月も舞台に立っていない時期があったんです。でも、いつでも舞台に立てる気持ちで生きてきた。だから『明日出てほしい』という声がかかったとき、再びチャンスを掴むことができたんです。彼女のキャリアが正当に評価されて必要とされるのは、本当に素晴らしいことだと思います。


私が挑戦を続けるのは、今の自分に納得できていないからなんですよね。Netflixの『新聞記者』に出演させていただいたときにも感じたことですが、私には知らないことが多すぎる。提案していただくお仕事のなかには、今はまだ怖い、と思って躊躇してしまうこともたくさんあります。だからこそ、期待に応えるだけの力をつけてまだまだ進んでいかなければ、と思っています」

TVドラマの『ドクターX』、ブロードウェイミュージカルの『シカゴ』と異なるジャンルで代表作を持つ米倉さん。ここを足場にしながら、これから先のキャリアにおいて、日本で、そして海外で新たな代名詞となる作品を増やしていきたいという思いはあるのでしょうか。

「何も考えていないです(笑)。……というのも、どちらも代表作になると思ってやってきた訳ではないから。『ドクターX』はもし続くとしたらストーリーを作るスタッフの方たちのほうが大変だと思うし、もう一度、大門未知子が一匹狼に戻る必要があるかもしれません。でも前回のシーズンでは主役級の役者さんたちがゲストで出てくださって、新しい仲間が増えていくような喜びも感じさせてもらいました。

私は『シカゴ』の舞台に立ってきましたが、英語を話せるというわけではないんですね。だから海外のほかの作品に出演することは無理だと思ってきたのですが、その考え自体、捨ててもいいのかなと思うようになってきました。セリフはしっかりと覚えて練習すればできるようになるし、日本人の役として起用されるチャンスもあるかもしれない。自分で可能性を狭める必要はないんですよね。だからこそ、今は『シカゴ』を全力で頑張りたいと思っています」

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米倉涼子
1975年8月1日生まれ。神奈川県出身。代表作にもなったドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)は昨年で10年目を迎える大人気シリーズに。現在、世界同時配信されているNetflixオリジナルドラマ「新聞記者」では、信念に従って突き進む主人公・松田杏奈を演じている。また、今年11月アメリカブロードウェイミュージカル『CHICAGO』で日本人女優では史上初となる4度目の主演を務める(東京凱旋公演は12月予定)


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撮影/中村和孝
スタイリング/野村昌司
ヘアメイク/奥原清一
取材・文/細谷美香
構成/朏亜希子(編集部)