「いっそ、無謀だと一蹴してほしい」そう願いながら相談した結果
その後は自分のペースを守りつつ、ありがたくいただいた仕事をしているうちに、ずいぶんたくさんの記事を書かせていただきました。
フリーライターとして活動して4年半ほど経った頃、2017年のことです。
それまで私が順調に仕事をいただき、著名な方々や人気芸能人の皆様に取材できたのは、比較的年齢が若かったからという側面もありました。「大御所ライターさんだと、ちょっと対象の俳優さんと歳が離れているから。町田さんならちょうどいいよね」なんて言っていただいて重宝されていたところもあります。
でも、この先はどうでしょうか。何もしないでいれば、仕事が先細るような気がします。かと言って、会社員に戻っても同じ失敗を繰り返すと思いましたし、フリーライターをしながらできる何か新しいことを模索したほうがいいんじゃない? と考えるようになります。
そこで、音楽やミュージカルをより専門的に学んでみたらどうだろう? と思い立ちました。
違った視点を持てるだろうし、いずれ増やしていきたいインタビュー仕事以外のミュージカル関係の寄稿仕事には拠り所が必要です。何よりこのまま漠然とした不安を抱えているのもしんどい。元来生真面目で小心者なのです(笑)。
そこでさまざまな大学のウェブサイトを見て、私のイメージするような勉強ができるところはあるのかと調べ始めました。以前から専門学校や劇場の講座などを受けては、「これじゃない」とがっくりする、ということを繰り返してはいました。
ピンときたのは、とある大学のアドミッション・ポリシー。
幅広い資料を検証する語学能力,独自の視点・問題点を発見する独創力,批判的に歴史・社会・文化を考察する思考力と論理性,様々な音楽に感動する柔軟な心を備え,将来何らかの形で音楽研究・ 実践・教育に携わる志を持つ人材
(※2017年当時)
これだ! と思いました。音楽の表現を、学問として体系的に学ぶ場所。演奏家になるための専攻ではなく、音楽そのものを読み解く場所です。
それは芸術系大学の日本最高峰にして最難関、東京藝術大学のウェブサイトでした。
藝大。さすがにそんなところに、思いつきで素人が入れると思うほど私もおめでたくありません。しかもいくら音楽学部の楽理専攻とは言え、入試はセンター試験(当時)だけではなく、なんと独自の実技試験、と書いてあります。
無理ムリ、藝大といったら日本中の才能が結集する場所。音楽の実技など、ピアノがほんの少し弾ける程度の私に出る幕はありません。
……そう思いつつも、アドミッション・ポリシーを見ればみるほど、これは私が学びたい内容にドンピシャだという思いがぬぐえません。しかし敢えて言いますが、こんな素人のおばさんが音楽畑一筋の若者に交じって藝大を受験するのは……。ウェブサイトを開いては閉じる、その繰り返しです。
そこでむしろそれは無謀だよと一蹴してもらえたら諦めが付くだろうと、高校時代の恩師や藝大卒業生の知人に思い切って相談してみました。しかし皆さん優しく背中を押してくださる。「やるだけやってみなよ、面白いじゃない」
その時点で、入試まであと6ヶ月。
37歳の、無謀な挑戦が始まりました。
1980年生まれ、早稲田大学第一文学部演劇・映像専修卒。大手演劇制作会社、出版社などを経て2012年10月、ライターとして独立。数々の大型ミュージカルのオフィシャルパンプレットに寄稿、演劇関連雑誌にて俳優インタビューやレポート記事を執筆。2018年4月より、東京藝術大学音楽学部楽理科に在学中。
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構成/山本理沙
写真提供/町田麻子さん
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