真奈を演じられた岸井ゆきのさんの印象について、尋ねてみました。

”むごい命の奪われ方”が繰り返し起こる世界で。残された痛みとの向き合い方【彩瀬まる】_img3
©️2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

彩瀬:岸井さんの表情がとても雄弁で……。特にすみれを失くしたあと、この世の中をどう捉えればいいのか分からないという戸惑いが表情ですごく伝わってきたと思います。震災のあとだったり、大きな事故だったり、世の中でとても残酷なことが起こると、私たちは実際に“戸惑う”と思うんですよ。でも、普通はその戸惑いを表に出すことなく、生きていかないといけないじゃないですか。日々の生活をこなすのに精一杯で、自分の感情に向き合っていられないんですよね。でも岸井さんが演じられた真奈は、本当に戸惑い、処理できない気持ちを抱え続けている姿を見せてくださったので、私自身に起こったことを思い出して、励まされる気持ちになりました。

 

浜辺美波さんが演じられたすみれについても、伺いました。

彩瀬:浜辺さんは音楽のプロモーションビデオなどで拝見していて、美しくて、ちょっと魔術的というか、そんなイメージが強かったんです。原作での【すみれ】も、“もうひとりの私”という描かれ方で、自分側から見ると捉えられない人として描いていたので、そういう幻の女性的なイメージの方なのかなと思ったら、むしろすごく自由奔放で自信に溢れる特別な友人みたいに描かれていて、でも後半ではガラリと印象を変えてこられるところが、すごい!と思いました。浜辺さんご自身が映画のサイトのコメントで「もう一度観たくなる」とおっしゃっていましたが、その感想がとても腑に落ちるという印象でしたね。私たちは友人や、自分をとりまくいろんな人々に対して“処理のしやすいイメージ”をかぶせて日々を生きていると思うんです。でも、何かふとした瞬間に、実はそのイメージは違ったのかもしれないと気付いて、相手の像がガラリと変わることがありますよね。すみれの描かれ方には胸を突かれました。

原作では抽象的に描かれる部分があり、それが【すみれ】であるのかどうかも明確には分からない状態で物語が進んでいきます。

彩瀬:原作のすみれは、少しだけ真奈よりも伸び伸びと生きているふうに見える人、という描き方をしましたが、中川龍太郎監督がすみれにカメラを持たせて、「実はカメラを介さないと話ができないんだろう」と遠野くん(杉野遥亮)に指摘をされるシーンなんて、すごく力強い創作だと思いました。そんな発想は私には出てこなかったですし、何かを撮るという行為が実は世界からワンクッション置く行為だというのが、実際に映像を撮っている方から提案して仕掛けていただくとは……。世界との距離の取り方にそういう方法があるのかと、すごく驚きましたね。