パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、妊娠、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第4弾がスタート!
「プティット・クルヴェット」(5)
5.
「ギャルソン(男の子)」
技師の言葉とほぼ同時にリュカを見つめると、驚いたように目を見開いてエコー画面に食い入っていた。大きく一度まばたきしたかと思うと、その瞳がきらりと強い光を放って私に向けられる。既に涙ぐんでいた。
「女の子がいいと思ってたけど、男の子って聞いた瞬間、もう最高の気持ちだったよ!」
二度目のエコーを終えて診療室を出た途端、リュカにきつく抱きしめられた。よしよしと背中をさすってやりながら、私も高揚を抑えられない。
「とにかく、赤ちゃんが元気で良かった」
平均より少し小さめだが、全て順調とのこと。胎嚢云々についても、胎盤が安定したので一件落着のようだ。もしなにかあったら悔やんでも悔やみきれないところだった。
久実子に怒られた後、自分の行動を振り返って次から次に心配事が増え、リュカとネット検索しては「日本ではこう言ってる」、「フランスではこうだ」と堂々巡りの議論になることも多かった。
「結局、調べれば調べるほどドツボにハマるんだよね」
「これからは専門家の言葉を信じて、ネット検索は必要最低限にしよう」
繋いだ手を元気よく振って帰りながら、私たちはそう決めた。そう誓わねばならぬほど、この数日、ネット情報に振り回されて一喜一憂していたのだった。
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