パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、妊娠、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第4弾がスタート!

 
あらすじフランスで年下の夫・リュカの子どもを妊娠した蘭(らん)。胎児のダウン症検査で「要再検査」となり動揺するが、陰性の結果に。その後も夫婦生活や体調の変化に戸惑いながらも、だんだんと母親となる覚悟が芽生えはじめた。
 

「プティット・クルヴェット」(6)

6.


こってり背脂の浮いたスープを太麺にからめ、ずるんと勢いよくすする。

「嗚呼、背徳って美味!」

久々の外食、ラーメン。妊娠発覚後から、食事の基本方針は「塩分脂質は控えめに」だが、その対極にあるパンチの効いた濃厚さにくらくらする。サイドメニューに半ライスなどといわず、大盛りで頼めばよかったと密かに後悔した。

「どんな食事も、たまに食べるくらいOKでしょ。ストレスためるほうが良くないって」

クライアントで日本雑貨のセレクトショップを経営している円華(まどか)さんに声をかけてもらい、オペラ地区にやってきた。この界隈は日本食レストランが多く、特に店が密集しているサンタンヌ通りは「日本街」の異名も持つ。

 

「打ち合わせの後は、蘭さんの好きなものを食べよう」と言ってくれ、数日前からなにを食べようかと舌なめずりしていた。

お腹の調子が落ち着いてきて、欲望が「とにかく肉」モードから「懐かしの味」へとシフトしたのだが、インスタントラーメンは添加物が多すぎるとリュカに取り上げられていた。「仕事でランチ」という名目なら、堂々と好きなものをがっつける。