映画『やがて海へと届く』で、親友を失ったことを受け入れられない女性・真奈を演じている岸井ゆきのさん。ドラマ『恋せぬふたり』では、恋愛感情や性的欲求を持たない咲子を演じ、話題を集めました。

はじめて私が岸井ゆきのさんを認識したのは、ドラマ『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』でした。彼女は未蘭という、元家庭教師の継母(実は実母を殺した犯人)に毒を盛られてしまう役を演じていました。解毒薬により一命を取り留めるのですが、解毒薬を飲んだ直後、白目をむいて泡を吹いて倒れるシーンの顔がリアルで怖すぎて、いまだにちょっとしたトラウマになっているほど。「演技がうますぎて怖い」という初めての感情に戸惑ったのを覚えています。

本記事では、彼女の主演作をいくつか挙げつつ、その魅力について語りたいと思います。
 

切なさを上回る痛々しさ『愛がなんだ』

岸井ゆきのさんの魅力――目を惹きつける、その唇が開くとき_img0
映画『愛がなんだ』2021年春公開。Netflix、Amazon prime videoほかで配信中。

映画『愛がなんだ』では、マモル(成田亮)に夢中で仕事も上の空でクビ寸前、友達にもあきれられる恋愛依存体質の主人公・テルコを演じています。過去の恋愛を思い出してヒリヒリする人も多いのではと思うこの作品ですが、同じように過去の恋愛を思い出す系の作品は現実より少しだけ美しく描かれていることも多い一方で、テルコは本当に痛々しいです。

 

自己中心的だし、社会人としてどうかと思うし、舞い上がりすぎてちょっと気持ち悪さすら感じる。身につまされるような気持にはなるし切ないけど共感はできないというか、テルコを好きか嫌いかでいうと、好きになれない人のほうが多いと思う。でもそれだけ、彼女が痛々しさを妥協なく演じたということだと思います。それに、何だかこの感情は同族嫌悪に近いのかもしれません。

マモルが思いを寄せる相手・すみれ(江口のりこ)の悪口で構成されたラップ(あんまりうまくない)を夜道で繰り出すシーンは、今も忘れられません。