2021年9月に発足した「デジタル庁」。行政手続きのオンライン化をはじめ、官民の連携や暮らしのサービスの充実など、デジタルの力を全面的に活用した「誰一人取り残さない 人に優しいデジタル化」社会を目指しています(参考:デジタル社会の実現に向けた重点計画/デジタル庁HPより)。発足から約半年、その真価が問われるのはこれからと言えそうですが、デジタルを駆使した「誰一人取り残さない」社会をいち早く推進する、台湾のデジタル大臣 オードリー・タン氏と市民の取り組みを見れば、目指すべきビジョンの一端が見えてくるかもしれません。今回はオードリーさんの語りがまとめられた新書『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』から、特別に一部抜粋してご紹介します。


台湾政府内で推進した「デジタルトランスフォーメーション(DX)」


2021年、日本でデジタル庁が設立された関係で、私が依頼された取材や講演のテーマに「デジタルトランスフォーメーション(DX)」関連のものが増えました。日本でも非常に関心が高まっているということですね。

私が台湾でデジタル担当大臣として推進しているミッションの一つに「オープンガバメント(開かれた政府)」があり、その中で行った施策のうち、最もDXの基礎に直結するのが、「Open APIで政府をオープンにすること」だといってよいでしょう。

※Open API(オープンエー・ピー・アイ)とは……API(Application Programming Interface、外部から接続するための仕様や手続きなどのインターフェース)を公開(オープン)し、外部から連携できるようにすること。

正確には当時の張善政(ちょうぜんせい)行政院副院長が構想を描き、ジャクリーン・ツァイ(蔡玉玲)前大臣が法律方面を任されていて、私は2016年に入閣する前、2014年頃から、ジャクリーン前大臣のリバースメンター(若手が年長者に助言すること。逆メンターともいう)に就任し、ともに推進していました。すでに台湾の各省庁では、多くの「Open API」が提供されています。

 


政府を「4段階」にわたって開放していく


「オープンガバメント」は4段階に分けられます。1段階目は政府の資料やデータを開放する「オープンデータ」、2段階目は開放された後に何か意見がないか問いかける「市民参加」、3段階目がそれらに政府が回答する「説明責任」、そして4段階目が “3段階目で誰かのことを忘れていないか”を探す「インクルージョン」です。

「Open API」は、その第1段階「オープンデータ」に位置づけられます。政府が行っていることを、民間側でもより発展させられるようにするわけです。

例として、日本でもよく知られている台湾の〈マスクマップ〉が挙げられます。

 

コロナ禍初期の台湾でマスクの在庫が足りなくなった時、政府はマスクの在庫を「Open API」で公開しました。それを利用してシビックハッカーコミュニティ〈g0v(ガヴ・ゼロ)〉の仲間たちとともにわずか3日間で作りあげたのが、全台湾に6000以上ある販売拠点のマスクの在庫が30秒ごとに更新される〈マスクマップ〉です。