パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、妊娠、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第4弾がスタート!

 
あらすじフランスで年下の夫・リュカの子どもを妊娠した蘭(らん)。夫婦生活や体調の変化に戸惑いながらも、だんだんと母親となる覚悟が芽生えはじめる。しかし夫婦二人の暮らしが終わることに、一抹の寂しさも覚えていた。
 

「プティット・クルヴェット」(7)

7.


ちょっと良いフレンチでフルコース! と何時間も下調べしてみたわりに、本当に食べたいと思うのはアジア系、それも麺類ばかり。

ラーメンは堪能したばかりだからと、中国の刀削麺、タイのパッタイ、ラオスの混ぜ麺と悩んだ結果、ベトナムのボブンに決めた。

日本でベトナムの麺料理といえばフォーだが、フランスではフォーに匹敵するほど人気がある。米粉麺に濃いめに味付けされた牛肉、ネムという揚げ春巻き、ローストピーナッツなどがトッピングされ、きゅうり、人参、もやしなどの野菜と甘酸っぱいソースを混ぜて食べる。ガッツリ系サラダ麺という体でヘルシーそうな点も、お財布に優しいのも、罪悪感が軽くて良い。

妊婦は生野菜に気をつけろと散々言われているので、念のため私のボブンのサラダだけ温め直してもらった。くたくたになったレタスが少々切ないが、時々テイクアウトはしてもリュカと外食すること自体が久しぶりで気分が上がる。

 

「お腹の具合が安定してよかったね。赤ちゃんも急に大きくなったみたい」

「動きも活発になってきたよ。けっこう暴れん坊な子かも」

「食いしん坊なことは間違いないだろうね」

ぐんと前に張り出し、どこからどう見ても妊婦の丸いお腹をさすりながら上機嫌で大盛りボブンを食べ切った。

「エネルギーチャージしたところで、午後はがんがん買いまくろう!」

初めて子供服専門店に入り、一瞬で小さな衣類の愛らしさに心を奪われた。「あれがかわいい、これも素敵」とはしゃぎながら、貧乏根性でつい、−30%、−50%、−70%……値引率が気になってしまう。

調子にのって店を梯子していると、唐突に目眩と吐き気に襲われた。