男性社員が使っているお茶椀や好みを把握した上でお茶を入れるのも大事な仕事。数年間、補助的な仕事をしている間に有望な男性社員と職場恋愛して寿退社するのが女性の幸せ! なんて時代がほんの30〜40年前の日本では当たり前でした。1986年に施行された男女雇用機会均等法で、募集や採用で女性に対して男性と均等な機会を与えるように努めることを事業主に義務付けたことで、男性は責任ある仕事、女性は補助的な仕事という形の募集や採用はなくなったものの、すぐに会社のあり方が変わるわけではありませんでした。

同法施行の2年後の1988年から1997年まで「BE・LOVE」で連載された『悪女(わる)』を今読むと、マンガでデフォルメされているとはいえ、「当時の日本の企業ってこんな感じだったの?」と驚きと発見の連続。連載中はバブル期真っ只中だったこともあり、もはや異世界の物語のようでもありますが、主人公の新入社員・田中麻理鈴(まりりん)の奮闘ぶりや前向きさから、令和の今も刺激をもらえそうです。

『悪女(わる)』(1) (BE・LOVEコミックス) 


“下等のコネ”入社の落ちこぼれ社員に何ができる?


お仕事エンタメマンガとして人気を集めた『悪女(わる)』の連載開始から30年以上が経った今年、今田美桜さん主演でドラマ化が発表されました。この作品は連載中の1992年にも石田ひかりさん主演でドラマ化されていて、今回が2回目。原作の舞台は巨大商社でしたが、令和版『悪女』では大手IT企業。時代の変化に伴って、ドラマの設定や内容もアップデートされているようです。そうなると気になるのが、原作の中身。紐解いてみると、当時の女性の価値観や仕事を取り巻く環境などを垣間見ることができます。

 

物語のはじまりは、巨大商社オウミの入社式。大勢の新入社員の中に、田中麻理鈴(まりりん)の姿もありました。この名前は、父がマリリン・モンロー好きだったことから付けられたものでした。麻理鈴いわく、三流大学を四流の成績で卒業し、父の友人のコネでこの会社に入社することになりました。なので、周りの社員たちの間に飛び交うカタカナの専門用語なんて全く分からず。恐ろしい魔窟に入り込んだような感がありました。

 

そんな麻理鈴が配属されたのは、資材管理室。昼休みに隣の席の先輩・峰岸雪さんとしゃべっていて、ここが“下等なコネ”で入社した人が回される部署だということを知ります。入社時から会社に落ちこぼれ認定されているようなもので、ボールペンやクリップ、コピー用紙などの備品を管理する仕事で、麻理鈴は知らないことだらけですが、なんとなくいいことがありそうな気がしています。

 


名前も顔も分からない、運命の男性との出会い


ある日の朝、通勤ラッシュの人の波に揉まれながらなんとか会社に着いた麻理鈴は、バッグからコンパクトを落としてしまいます。ある男性がそれを拾って渡してくれました。その時、麻理鈴は彼に心を奪われてしまいます。まさに運命の出会いでした。

 

名前もわからないその男性のスーツの襟には、麻理鈴と同じ会社の社章がついていました。とはいえ、巨大商社のオウミは、国内外に129の拠点があり、その男性が本社勤務とも限りません。名前も部署もわからない彼に一目惚れしてしまって、仕事中も考えるのは彼のことばかり。麻理鈴はコネ入社ということで、周囲の社員からの風当たりが厳しい中でも、運命の彼に会えるかもしれない! ということを励みにして毎日を乗り切ろうとします。

そんな麻理鈴の姿を見ていた峰岸さんがある日突然、「出世したくない?」と持ちかけてきます。峰岸さんいわく、出世すれば会社の人事も思いのまま。「なんでも好きなことできるわよ」とのこと。

女性は結婚までの腰掛けで、出世なんて考えられない時代でしたが、麻理鈴は真面目に働いて社会人としてどこまでいけるか、そして出世すれば名前も知らない彼にたどり着くことができるのでは、と思い、峰岸さんの誘いに乗ることを決意。すると、峰岸さんから「ビルの掃除をしている女性の名前と特徴を覚えて」「社史を覚えて」と謎のミッションを次々と言い渡されるように。

武器も防具も持たない、レベル1の麻理鈴が、果たして巨大商社というダンジョンで一つずつミッションをクリアして、王子さま=謎の男性と結ばれることはできるのでしょうか?
 

昭和感満載だけど、今も色あせない作品のパワー


登場人物の髪型や服装、言葉遣いは昭和感満載で、「テレホンカード」や「ワープロ」など、懐かしのアイテムも多数でてきますが、それはそれで逆に新鮮に見えてきます。

 

名前もわからない謎の男性は、今なら社内ネットワークやSNSなどを駆使して調べることができそうなのに、当時の麻理鈴にはもちろんそういう術はなく、社内の秘書課のファイル室に忍び込んだり、彼の行きつけのバーに毎日顔を出したりと、涙ぐましい努力を続けることになります。偶然、T.Oさんというイニシャルだけわかることになるのですが、顔も名前も知らない彼に会いたいという一途な思いが、麻理鈴の原動力となります。ただ会うだけではなく、胸を張って会えるように仕事にも邁進しはじめます。麻理鈴を快く思わない人や、女だからとまともに扱おうとしない男性社員とやり合いつつも、持ち前の明るさと前向きさで周囲を巻き込み、彼らの意識を少しずつ変え、旧態依然とした会社の中で挑戦しつづけていくことになるのです。

時代背景があまりにも違いすぎて、今読むと、「いやいや、ありえないでしょ!」とツッコミを入れたくなる場面も多々ありますが、周囲の空気をあえて読まず(読めず?)、壁にぶつかってもなんとか乗り越えようとする麻理鈴の姿勢からは、今もパワーをもらえます。そして、ストーリーの面白さも色あせていません。だからこそ、平成、令和と2回もドラマ化が実現したのでしょう。

ちなみにコメディタッチの本作と『悪女(わる)』というタイトルがミスマッチと感じる人もいるかもしれませんが、逆境を乗り越えていくには、いい子だけじゃだめで、「ときには悪女(わる)にもなるのよ」という峰岸さんのアドバイスに由来しているよう。4月13日から日本テレビ系でスタートの『悪女(わる) 〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』を見ると、きっと原作を読んでみたくなるはず!


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作者プロフィール
深見じゅん(ふかみじゅん)

2月19日生まれ。長崎生まれ福岡育ちのうお座、A型。『悪女(わる)』で、第15回講談社漫画賞・一般部門受賞。代表作は、『悪女(わる)』『ぽっかぽか』など。

『悪女(わる)』
深見じゅん
講談社

おちこぼれ麻理鈴のすてきな恋がスタ-ト!
近江物産に入社した麻理鈴は、T・Oさんにひと目ぼれ。
会社のどこかにいる彼に会うために、出世しようと決意する。
峰岸さんのアドバイスに勇気百倍の麻理鈴は?