「波風を立てない」「誰にも響かない」言葉を選ばない覚悟


――2007年の入社以来、井上さんは局アナとして生放送の情報・報道番組を中心に出演されています。その間、大規模な自然災害やコロナ、そして戦争と、とても明るいとは言えないニュースも多かったと思いますが、カメラの前で情報を伝える際に心がけていることはありますか?

井上アナ:「つながる」とか「寄り添う」といった耳触りの良い言葉をメディアは使いがちです。実際、コロナ禍の報道では僕自身も使っていました。でもよく考えてみると、つながりましょう、寄り添いましょうと押し付けることはメディアの“エゴ”ではないか? そんなことを思ったんです。「皆さんに寄り添っています」「国民的な議論が必要です」と言えば波風は立てずに済みますが、結局誰にも何も伝えられていない。誰も傷つけない言葉は、誰にも響かない言葉なのかもしれない。そう気づいて吹っ切れてからは、自分が見ていて胡散臭いこと、上滑りしていること、ありきたりなことは全て排除しようと努めています。ニュースを伝える時、自分自身が一番「面倒臭い視聴者」でありたいなと。

「誰も傷つけない言葉は、誰にも響かない言葉かもしれない」。TBS井上貴博アナが語った“傷つく覚悟”とは_img1
「Nスタ」では、井上さんが着ける「ネクタイピン」が可愛いとネットでも話題に。「コロナ禍は鬱々としたニュースしかなかったので、見てくださる方が少しでも楽しんでいただけるように」と井上さん。今では150個ほどのコレクションの中から、その日の気分で選んでいるそう。

――ちなみに「吹っ切れた」というのは、具体的にどういうことでしょうか。

井上アナ:どこかで「好かれたい」という気持ちがあったのですが、その考えが軽薄だったと気づいたんです。嫌われてもいいから「私は、こう思います」と主語を小さくして伝えようと。「局アナの意見なんていらねえ」とバッシングされることも当然あります。ですが先ほどお伝えしたように、僕はテレビを変えたいですし、変えられるのはテレビ局内で働く“局アナ”だけだと思っている。今までのテレビのやり方に“NO”を突きつけた結果として自分がバッシングされるのは、僕は一向に構いません。「誰も傷つけない言葉を選ばない」ということは、「自分も傷つく覚悟が必要」ということですから。その覚悟はできています。

 

――局アナは「サラリーマン」でもありますが、自分の意見を率直に伝えることで、会社と摩擦が生じて“しんどさ”を感じる場面はないですか。

井上アナ:僕自身、人生はRPG(ロールプレイングゲーム)だと思っているんです。途中にはアクシンデントもあれば、ダンジョンには落とし穴もある。誰かとのバトルだってあります。それがRPGというゲームですからね。戦わずしてクリアできてしまうとしたら、僕はそのRPGはすぐにやめると思います。とはいえ、コロナ禍にものすごく叩かれてバッシングを浴びた時は、カメラの前に立つのがちょっとしんどいなと一瞬弱気になったのも事実です。だから、人生をRPGだと考えるのは、自分の逃げ道のためでもありますね。