パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、妊娠、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第4弾がスタート!
「プティット・クルヴェット」(8)
8.
「すごい夢だねぇ。『エイリアン』の影響かな」
子供がガーゴイルの顔だったという悪夢を語ると、久実子は大笑いした。
毎月恒例の近況報告。久実子は尿糖値で引っかかって妊娠糖尿病の検査を受けることになったと嘆いた。
「フランスでは35歳以上の妊婦は妊娠糖尿病の検査が必須らしくて、私も先週受けてきたよ」
12時間以上空腹の状態で最初の採血をし、レモン風味の激甘シロップを短時間で飲み切る。頭に血が逆流したような感覚に気持ち悪くなったが、それから一時間後、二時間後と二度採血。午前中いっぱい拘束され、解放されて歩き出すとふらふらした。
「そっちでも35歳以上が高齢出産っていう概念は同じで、検査が手厚くなるんだね」
久実子が感心した様子なので、不確かに首を捻る。
「んー、『高齢出産』に当たる言葉は存在しないみたいだけど」
私がリュカに「Accouchement de la personne âgée(お年寄りの出産)」と直訳して説明してみたところ「そんな呼び方あるかなぁ、女性に対して失礼だし。50歳、60歳で出産ならまだしも、35歳で高齢って……」と、眉をひそめられた。
「それ、私も深く同意! 今は三〜四人のうち一人が高齢出産なんだって。もはやあえて『高齢』って言うことなくない? 出産リスクが上がるっていうのは実際そうなんだろうけどさ」
久実子が思いの外、鼻息を荒くして食いついてきた。何かにつけ寛大な彼女が、密かに反発心を抱いていたらしい。
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