年をとるのは、かならずしも悪いことではない
ホール氏にとって、老いることは死ぬことよりも気がかりだったようです。彼は老いることで困ること、もしくは得をすることを感傷的になることなく淡々と書きつづっています。
「わたしにとって、問題は死ぬことではなく、老いることだ。困るのはバランス感覚を失うことであり、膝が弱ることであり、立ったりすわったりするのがむずかしくなることだ。昨日は肘かけ椅子にすわったまま寝てしまった。そんなことはこれまで一度もなかったのに。日に日に怠惰になっていく」
「年をとるというのは、かならずしも悪いことではない。何年もまえから空港では歩くことをやめ、車椅子を押してもらっている。空港の介助スタッフのおかげで、セキュリティ・チェックを通過するのは1分とかからず、誰よりも早く飛行機に乗りこむことができる」
フェイスブックは友情を失わせるためにある気がする
技術の進歩にともなって人間の生活スタイルや社会のあり方も変化していきますが、老境に入ったホール氏は、時代の移り変わりを一歩離れたところから見ていました。そんな彼が発する言葉はどこか物事の本質を突いているようで、単なる老人のぼやきとして片づけてはいけない気がします。
「老いはイノベーションを嫌う。10年前に一度コンピューターに触れたことがある。黒くて、硬くて、マウスにさわったときは気味が悪かった。本物のマウスではないとわかってはいたが。国道4号線ぞいの家のなかで、コンピューターがないのはここだけだ。アイなんとかも持っていない。テレビはある。MSNBCのニュースと野球を見るためだ。世のなかの動きは新聞や雑誌で知る。フェイスブックは友情を失わせるためにあるような気がしてならない。Eメールやショートメッセージは郵便局をつぶす。eBayはガレージセールにとってかわる。アマゾンは書店を窮地に追いこむ。テクノロジーは加速し、2倍速となり、すぐまたその2倍速となる。芸術はうたた寝をしている」
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