「きました、陣痛です」


パニックになりかけネット情報に頼ると、出血があったからといってすぐに陣痛がくるわけでもないらしい。

二〜三日続くこともあるというから、慌てなくてもいいのかも……だがやはりドキドキして、この興奮を分かち合おうと寝ているリュカをわざわざ起こす。

「いつ生まれてもいいように、寝ておいたほうがいい。体力温存しなきゃ」

だが意外と冷静に「なにかあったらすぐ言ってね」と再び毛布にくるまってしまい、ちょっとふてくされた。

 

「きました、陣痛です」

 


早朝に微弱な腹痛で目覚めた。痛みがさざ波のように寄せては引き、その間隔が少しずつ短くなることで確信した。昨日の出血時とは打って変わって、なぜか敬語になるほど落ち着いていた。くるべき時がきたという心地よい緊張感に身が引き締まる。

まだ痛みが強くないうちにシャワーを浴び、朝食もしっかりとる。エネルギー補給を名目に、今まで制限されていた甘いものもここぞとばかりに胃に詰めこみ、入院バッグを再確認してリュカと共にタクシーで産院に向かった。

事前に指示されていた通り「救急」に回ったが、待合室には同じ状況らしい妊婦や付き添い人が既におり、順番待ちで検査を受ける。

「まだ子宮口は1cmしか開いてませんね。一度帰ってもらったほうがいいかな」

医師の言葉に耳を疑う。そんな馬鹿な。

陣痛がきているのに、前回の内診から変わっていないというのか……しかし「念のため」とエコーをとると、気楽な顔をしていた医師が突如ピリッとした表情に変わった。