パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、妊娠、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第4弾!
「プティット・クルヴェット」(12・最終回)
12.
「長時間待つと胎児が危険になるかもしれない。もう少し様子をみて変化がなければ、子宮口を広げるためにバルーンを入れましょう。二十四時間経っても産まれないときは、陣痛促進剤を打ちます」
「最大二十四時間ここで待つってこと⁉︎ 絶対嫌!」
どちらにせよ誘発分娩をするなら今すぐ促進剤を打ってくれと泣きつくが、できるだけ自然な形で産ませたいらしい。
再びつけられた分娩監視装置の波形を観察し、医師は「まだまだですね。なにかあればボタンを押して呼んでください」と慌ただしく個室から出ていった。
産院に来てから既に十時間は経っている。このまま更に丸一日……? 久実子の壮絶体験を思い出し、鳥肌が立つ。
が、十分もしないうちに今までと比べものにならないほど強い痛みが下腹部を襲った。獣じみた唸りを発せずにはいられない。
習った呼吸法でしのぐのもついに限界がきて、医師を呼ぶ。リュカの手を砕く勢いで握りしめて耐えるが、モニターに現れるグラフの波の大きさがほとんど変わっていないことに気付いた。
「このモニター壊れてんじゃない? ていうか、バンドゆるすぎなんだけど」
お腹に密着していないモニターを自分の手でしっかり当て直す。小さい頃、学校をずる休みしたいときは脇でぎゅっと体温計を挟み、思い切り力を込めて熱を出そうとしていた。
ーーでもこの痛みは嘘じゃない、どうか届いてくれ……!
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