パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、妊娠、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第4弾、いよいよクライマックスに!

 
あらすじフランスで年下の夫・リュカの子どもを妊娠した蘭(らん)。夫婦生活や体調の変化に戸惑いながらも、だんだんと母親となる覚悟が芽生えはじめる。けれど妊娠も後期に入り、マタニティーブルーに悩まされるのだった。
 


「プティット・クルヴェット」(10)

10.


「子宮口は約1cm開いています。お手本のような進行具合ですね」

三度目の産院で、ようやく内診があった。妊娠後期で出産が近づくと赤ちゃんがお腹の下に降りてきて胎動が減るというが、今もクルクル動いている。痛いほど蹴られることもあり、まだ時間がかかるのかもと予測していたが、いよいよ運命の日は近いらしい。

「出産予定日の六日前までになんの予兆もない場合、連絡してください。予定日に予約を取って来てもらい、様子を見ましょう」

フランスの出産予定日は「この日に生まれてくる」ではなく「この日までに生まれてくる」予定日なのだと円華さんから聞いていた。まるで締切だ。

「日本の妊娠アプリで表示される予定日も、フランスの一週間前になってるよ。となると、もう十日後だね」

「もっと早いかもしれないよ。出産準備クラスの妊婦さんだって、二週間以上前倒しだったんでしょ」

台所に並び、私は夕食の下準備、リュカはお茶の用意をしながら「週末に生まれてほしい」、「昼間がいい」など好き勝手な希望を述べ立てていると、突然リュカが鋭い声を出した。