パリのアパルトマンの窓から見る、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様、不倫、妊娠、パートナーや家族の在り方とは……。フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第4弾、いよいよクライマックスに!

 
あらすじフランスで年下の夫・リュカの子どもを妊娠した蘭(らん)。夫婦生活や体調の変化に戸惑いながらも、だんだんと母親となる覚悟が芽生えはじめる。そして妊娠後期、いよいよ出産が始まる......!? 
 


「プティット・クルヴェット」(11)

11.


産後から一週間経ち、無事退院したと久実子からメールがあった。

満ち足りたような顔をして眠っている赤ちゃんの写真に、リュカと二人で目を細める。壁紙も張り替えたという真新しい子供部屋には、既におもちゃも山積みだ。

「やっぱり子供部屋、必要になるよねぇ」

今住んでいるアパートは2LKのため、子供が小さいうちはリュカの仕事部屋か寝室を片付け、子供部屋も兼ねてもらうつもりだ。だが大きくなったら引っ越すしかない。

「そのためにも稼がないと。子供が生まれたら今まで通りには働けないんだから、今のうちに仕事仕事!」

リュカは腕まくりをし、私もまた保障を受けるため産休申請をしているとはいえ、ギリギリまで働こうとパソコンに向かう。新規で手間のかかる仕事は無理だが、欲を出してバナー制作など小口をちまちま受けていた。定期的にクライアントのサイト更新を行うのも業務の一環で、度々休憩も取るため、気付けば深夜を回っていることもある。

「身体に障るから、早く寝なよ」

怒られながらもこの日は気分が良く深夜二時近くまで集中し、産前に片付けておきたかった仕事の目処がついた。達成感から深々と息をつき、さて寝るかとトイレに向かって固まった。

出血ーーこれは噂の「おしるし」というやつでは?