児童保護の判断ミスを防ぐために必要なもの
児童保護の現場での判断ミスを防ぐためはどうすればいいか? 児童相談員たちはそこで必要なものを廣川さんに力説しました。
「地域のみんなで子供を守る力。何度も何度も、子供はダメな母親や父親のもとに帰されるでしょう。家族や親子の修復には時間がかかるものです。だから、地域で子供や親子を見守る力が必要なのです」
地域で子供や親子を見守る力──相談員たちがこの言葉を口にした背景を、廣川さんはこのように考察しました。
「乳幼児や言語の未発達な幼い子供は、自分で助けてとは言えないし、性的虐待の被害者の多くは、口止めをされていたり、心を閉ざしてしまっていたりして、事実を話すことができない。それに対して警察や児童局は、苦しんでいる子供をわざわざ自ら探し出して救済を行うというような機関ではない。それらは、あくまで通報された虐待事案に対処するという公的な機関だ」
「完璧じゃなくてもいいんです」児童保護関係者たちの思いとは?
「官民連携」「見守る力」と並んでアメリカの児童保護を支えているのが、24時間365日対応のホットラインの存在だといいます。アメリカでは、虐待に関することならどんな相談でも受け付けるこのホットラインのおかげで、虐待かどうか判断がつかない人々の声もしっかり拾い上げ、結果的に児童の救済へとつなげていました。このホットラインの存在意義を、ホットライン室長ミシェルの言葉を通して伝えています。
「ホットラインは、人々の意思を支え、勇気を与え、その地域の底支えをすることができます。チルドレンズ・アドヴォカシー・センター(「チャイルドヘルプ」の運営する施設)のような初動の活動には、警察や検事、フォレンジック・インタビュアーのようなプロたちがいる。でも、そのプロたちの初動につなげるのは、虐待から子供を救いたいという、市民一人ひとりの意識なのです」
子供たちを救いたい。誤解でもいいから、少しでも虐待の疑いがあれば相談してほしい。廣川さんは児童保護関係者たちのそんな思いが凝縮したような一節を紹介しています。それは、一般の大人に配られるホットラインのリーフレットに書かれたものでした。
「完璧じゃなくてもいいんです。だから、私たちがいるのです。ホットラインに相談してください」
著者プロフィール
廣川まさき(ひろかわ まさき)さん:ノンフィクション作家。1972年5月27日富山県生まれ。岐阜女子大学卒。アラスカ・ユーコン川約1500キロの単独カヌー紀行『ウーマン アローン』(集英社)で2004年第2回開高健ノンフィクション賞。他に『私の名はナルヴァルック』(集英社)、『今日も牧場にすったもんだの風が吹く』(日経ナショナル ジオグラフィック)、『ビッグショット・オーロラ』(小学館)。
『チャイルドヘルプと歩んで 虐待児童を救い続けるアメリカ最大の民間組織に日本が学べること』
著者:廣川まさき 集英社 2530円(税込)
年間8000人を超える被虐待児童を救出しているアメリカ最大の児童救済組織「チャイルドヘルプ」の手法や理念を、長期取材を経て丹念にレポート。一方で、アメリカの児童保護の歴史や、児童保護に偉大な足跡を残した日米の女性たちを紹介するパートもあり、彼女たちの尽きることのない優しさに胸が熱くなるでしょう。子供たちを救うために自分にできることは何か?──そのヒントをくれる一冊です。
構成/さくま健太
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