誘いを断れなかった自分が、自分軸を持つためにしたこと


──『60歳、ひとりを楽しむ準備』(以下、本書)では岸本さんが60歳以降の人生を豊かにするコツを提示する一方で、40~50代の苦労したエピソードも告白されていて、今の40~50代が読んでも素直に共感できる内容ではないかと思いました。

ありがとうございます。人間って40代になると一気に責任が増しますよね。職場では多くの人が管理職になるでしょうし、家庭では子育てに奮闘しているかもしれない。仮に独身だったとしても、親の介護問題が浮上するかもしれない。自分以外の要素に振り回されがちな時期だと思います。ただ、そうやって他者に合わせていくと、いつかは破綻する。そのときに生き方や考え方を見直す必要に迫られるのだと思います。私の場合は40歳のときに大病を患ったのがきっかけで、自分軸で考えることの大切さに気づきました。

──自分軸を持つ前の岸本さんはどのような性格だったのですか?

仕事でもプライベートでも、他人からの誘いを断れない性格でした。病気を機にそんな調子ではいけないと悟り、一応お断りはするけど代案を出すようにしてみたんです。そうすると案外、人間関係が切れなかったんです。さらに言うと、誘ってきた相手が断られたことにホッとしている場面があることにも気づきました。断られて気分を損ねるほど真剣に誘ってくる人って、実は世の中にそんなにいないんですよね。

岸本さんが愛用している塗りの水差し


自分軸なしでやっていけるうちは、それでもいい


──ちょっとした気づきがあれば、誰でも自分軸を持つことができそうですね。

遅かれ早かれ、生きていればほとんどの人が他人軸から自分軸へ切り替えなければいけない場面に遭遇するでしょう。ですから、自分軸を確立しようと必死になることはないですし、自分軸が持てない自分を責める必要もないと思います。自分軸なしでやっていけるうちは、それでもいいと思っています。

 

──現在の岸本さんは、他人の意見に振り回されることはないのですか?

私もそこまで強い自分軸を持っているわけではないので、意識的に情報を遮断する時間を設けています。簡単なところでは、スマホを見る時間を制限していますね。家にいるときはスマホを寝室に置いたままにして、ほかの部屋へは持ち出さないようにしています。緊急連絡が入ることもあるので、着信音は出る設定にしておこうと思うのですが、それすら忘れることも。それでも今のところ不都合はないです。あとは、SNSとは距離を置くようにしています。情報があふれている今の時代は、他人軸にさらされない工夫をすることが大事ですね。