参議院の予算委員会で自身の買い物について問われた黒田氏は「私自身、スーパーに行ってですね、物を買ったこともありますけれども、基本的には家内がやっておりますので、包括的にですね、物価の動向を直接買うことによって、感じているというほどではありません」と答弁。この発言が再度、報じられたことで炎上がさらに拡大してしまいました。ネット上では、日銀総裁の年収が約3500万円であることを取り上げ「上級国民には庶民の生活は分からない」といった批判の声が飛び交っていました。

6月3日、国会の参院予算委員会で発言する黒田東彦総裁。写真:つのだよしお/アフロ

確かに3500万円の報酬をもらい、自身ではほとんど買い物に行かず、奥さんに任せっきりという状況では、物価の現状について生の情報を得るのは難しいでしょう。ただ、こうしたギャップというのは、多かれ少なかれ、私たちの中に存在しているものだと思います。

 

筆者自身は、よく買い物に行く方ですし、値札のチェックが大好きですから、昨年からすでに多くの製品が値上がりしていることについて体感的に理解していました。筆者は「多くの商品が値上がりしており、日本でもそろそろ本格的な物価上昇が始まる」という主張をあちこちで行っていましたが、ネット上では「コイツは夢でも見ているのか?」「デマを拡散するな」など、罵詈雑言を浴びる有様でした。

今となっては多くの人が、激しい値上がりを実感していますが、昨年までは、他の専門家やメディア関係者と議論していても、「日本ではインフレなどあり得ない」などと、色をなして反論されることが多かったというのが現実です。

人は、自身が望まない現実を前にすると、目を背けようとする傾向が顕著です。自身の足と目をフルに活用し、嫌なことも含めて、今、何が起こっているのか知ることはとても大事なことだと思います。しかしながら、日銀総裁のような要職に就く人たちが、私たち庶民とまったく同じ生活を送らなければ経済の実状について正しく分析ができないのかというと、それも違うと筆者は考えます。

統計データというのは、経済や社会の実状を正確に分析するために存在しており、正しくデータを扱えば、たとえ自身は生活にまったく困っていなくても、多くの庶民がどのような生活環境にあるのかしっかり把握できるはずです。

問題なのは、黒田氏の生活が庶民とかけ離れていることではなく、日銀総裁という物価の安定に責任を持つ立場の人が、平均的な日本国民の生活について正しく認識できていないことです。

もし何らかの理由があって、データを完全に消化できていない、あるいはそれを曲げて解釈していたのだとしたら、それは軌道修正する必要があると思いますし、こうした姿勢こそが、要職に就く人に求められる資質と言えるでしょう。
 

 


前回記事「円安で物価上昇が止まらない...「国産」表示に隠れた日本の輸入依存度」はこちら>>

 
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