「助けが現れてめでたしめでたし」
とはならないのが現実
近年、日本でも話題に上ることの多い「子供の貧困」。「ミアのような厳しい現実を生きる子供は、今の日本にも沢山いると思います。でも私たちはそれを見えない存在にして、耳をふさいでいるのかもしれない」とブレイディさんは言います。
ブレイディ:日本はイギリスと違って、豪華なタワーマンションの裏の小さな公園に、ホームレスの人たちが寝ているという感じで異なる層の人々が混在しているから、おそらく誰にだって目にしているはずなんですが、見ていない。いろんな面で国が衰退しているのに、そこにもまた向き合ってない感じがするんですよね。政治家たちもそうですが、一般の人たちもそういうところがあると思う。 上の人たちを突き上げていかないし、文句も言わないし、言ったとしても叩かれる。政治家には都合がいいんだろうけど、それによる弊害っていうのは明らかに起こっていると思います。メディアにしても文化にしても、何でもかんでも「めでたしめでたし、日本ってそんなに悪くないよね」みたいな話ばっかりしていると、気がついたときにはえらいことに、という状況もあり得る。
谷川俊太郎さんが今年の初めに『ぼく』という絵本を出されたんですが、それって少年が自殺する話なんです。「助けが現れてめでたしめでたし」という展開がない、何の救いもない話。ある番組でそれを書いた理由を聞かれた谷川さんがおっしゃってたんですよね。「つらく厳しい現実を見られるようになっていただかないと、絵本を出す意味がないと思った」って。やっぱり「ここにあるでしょ、見なきゃいけないよね」って突き付けていかないと始まらない部分があると思います。現状維持は楽ですよね、何も考えず言われるままにやっていればいいから、我慢と引き換えに安心が貰えた。でもそれは昔の日本の話です。コロナ禍あり、戦争あり、この政治状況ありで、何の問題もない、このままで行けると言い切れる人は、気づいていないふりで不安に蓋をしてるだけかもしれません。
ブレイディみかこさんのインタビュー後編では、教育問題について伺います。
ブレイディみかこ
1965年、福岡県生まれ。1996年から英国ブライトン在住。2017年、『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で新潮ドキュメント賞を受賞。2019年、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で毎日出版文化賞特別賞、Yahoo!ニュース | 本屋大賞 ノンフィクション本大賞などを受賞。ほか著書に『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』など多数ある。
<作品紹介>
『両手にトカレフ』
ブレイディみかこ ¥1650(ポプラ社)
私たちの世界は、ここから始まる。
寒い冬の朝、14歳のミアは、短くなった制服のスカートを穿き、図書館の前に立っていた。そこで出合ったのは、カネコフミコの自伝。フミコは「別の世界」を見ることができる稀有な人だったという。本を夢中で読み進めるうち、ミアは同級生の誰よりもフミコが近くに感じられた。一方、学校では自分の重い現実を誰にも話してはいけないと思っていた。けれど、同級生のウィルにラップのリリックを書いてほしいと頼まれたことで、彼女の「世界」は少しずつ変わり始める――。
撮影/Shu Tomioka
取材・文/渥美志保
構成/川端里恵
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