行政のIT化については、マイナンバーカードが普及していないことが原因との指摘もあるのですが、これも正しい認識とは言えません。確かにマイナンバーカードの普及率は低い状況ですが、マイナンバーそのものはとっくに全国民に付与されています。各自治体には住民基本台帳がすでに存在しており、誰がどこに住んでいるのかもたちどころに分かりますし、住民税の徴収も行っているので、所得についても把握済みです。税務署には、基本的にすべての法人の税務データが存在しますから、システム環境さえ整えば、給付の自動化は可能です。
つまり、番号を使った住民(国民)あるいは法人の一元管理はすでに実施済みであり、カードの有無とは関係ありません。現時点で存在している仕組みを使えば、米国のようなプッシュ型の支援というのは実現可能ですから、適切なシステムを開発できるかどうかがカギを握ります。したがって、マイナンバーカードを普及させなければ、こうした行政サービスが実現できないというのも、少しポイントがずれた議論ということになるでしょう。
では、基本的なインフラが整っているにもかかわらず、なぜ日本ではこうしたシステムを開発できないのでしょうか。その理由のほとんどは人材です。
IT化で重要な役割を担っているのは、技術というよりむしろ人材です。優秀な人材を確保できれば、技術は後からついてくると考えた方が良いでしょう。日本は諸外国と比較すると、民間企業のIT活用も遅れているのですが、特に行政組織はそうした傾向が顕著です。
公務員の人事体系は、基本的にゼネラリスト養成形になっており、特定分野の専門家が育ちにくいという特徴があります。せっかくシステム部門に配属になっても、2〜3年で次の部門に異動してしまい、ノウハウが蓄積されません。結果として、システム会社に依存することになり、場合によってはシステムの設計や開発を事業者に丸投げしてしまいます。
仕事を受注したシステム会社は、自社の技術仕様でシステムを開発しますから、後になって他社が開発したシステムと連結しようとすると、様々な問題が発生するのです。もし行政組織の側にITの専門家がいれば、こうした問題が発生しないよう、システム連携ルールをあらかじめ設定しておき、各システム会社には、そうした共通ルールに準拠してシステムを開発するよう指示することもできます。
政府はデジタル庁を創設し、官庁主導でシステムを作るという方向性に舵を切りましたが、問題が山積しており、スムーズには進んでいないようです。しかし、ある程度の時間をかければ、ノウハウも蓄積してくるはずですし、政府の取り組みはやがて自治体にも波及してくると予想されます。
今回のコロナ危機には間に合いませんでしたが、次に何らかの危機が発生した時には、プッシュ型の支援サービスが実現していることを期待したいところです。
前回記事「【値上げ受け入れ発言】“報酬3500万円”の日銀総裁に庶民の生活は把握できない?」はこちら>>
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