写真:Shutterstock

今年の4月以降、多くの商品やサービスで値上げが行われていることについて、日銀の黒田東彦総裁が「家計が値上げを受け入れている」と発言し、その後、謝罪に追い込まれました。

 

多くの商品が値上がりする中、安いものを探すことを諦めてしまった消費者は少なくありませんが、それは他に選択肢がないからであって、家計が値上げを喜んで受け入れたわけではありません。日銀と平均的な日本国民との間には、物価の認識について相当な乖離があることが浮き彫りになった格好です。

黒田氏は2022年6月6日、都内で講演し「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」との見解を示しました。この発言内容が報じられると、ネット上ではちょっとした騒ぎとなりました。

発言の根拠となったのは、東京大学大学院の渡辺努教授によるアンケート調査で、それによると、いつも行くお店の値段が10%上がった場合、「他の店に移らず、その店で買い続ける」と回答した人が56%と、米国や英国と近い結果になっています。以前の調査では43%でしたから、日本でも値上げを受け入れる人が増えたとの解釈です。

出典:東京大学大学院 渡辺努教授「5か国の家計を対象としたインフレ予想調査」の結果


黒田氏はこの調査結果をもとに、「家計が値上げを受け入れている間に、良好なマクロ経済環境をできるだけ維持し、賃金の本格上昇につなげていけるかが当面のポイントだ」と発言しました。賃上げが重要という趣旨の発言ではありますが、やはり多くの国民は「値上げを受け入れている」という部分に違和感を抱いたようです。

4月以降、多くの商品で値上げが行われていることは、説明するまでもありませんが、日本の場合、物価ばかりが上昇して賃金は上がっていませんから、国民生活はますます苦しくなっています。この状況について「家計が値上げを受け入れている」と機械的に言われてしまうと、やはりカチンと来た人が多いのではないでしょうか。

まずいことに黒田氏は、当該発言の3日前にも、国民とのギャップを感じさせる発言を行っています。

 
  • 1
  • 2